”大海原に抱かれて” in Ogasawara

3月10日(火)


6時起床。

朝食後、7時には伊豆諸島開発鰍ェ運航する「ははじま丸」(総トン数490トン)の前にスタンバイ。

かなり強い風が吹いていて、港内なのに白波がたっている。相当揺れそうだ…。発航中止基準ギリギリで、「条件付き」の出港となった。つまり、一応母島へ向けて出港するが、天候次第によっては引き返す、また、本来の運航スケジュールでは、母島停泊時間は4.5hあるが、1hの停泊の後、すぐに父島へ向けて出港することとなった。

もともと母島での用務もあったのだが、このスケジュールでは端折って手短に済ませる必要がある、また、少しは島内観光する時間がとれる予定だったが、それもなしになってしまう…残念(>_<)。天然記念物の「メグロ」と海岸に転がっているまんまるの石を見てみたかったのになあ。

私達4人と伊豆諸島開発鰍フK部長は先に本船に乗船して、乗客の乗船、荷役の様子をみる。


定刻通りの7時30分に出港。父島までの予定航海時間は2h。「ははじま丸」のブリッジは「おがさわら丸」ほど広くないので、最初はTさんとSさんが行き、私とMさんは船室に待機することになった。

港内にもかかわらず早くもかなりの揺れ。とりあえず、船室にいてもつまらないので、後部上甲板に出てみる。


早くも甲板上は潮をかぶっている。最初のうちこそ、何人か乗客が出ていたが、みんないなくなってしまった。しばらく一人で海を眺めていたら、一瞬のことだったので、写真を撮ることができなかったが、眼の端に”黒い帆を張ったヨット”みたいなものが転覆したように映った。あれっ?と思ってもう一度見てみると潮を吹いているのが見えた。もしかしてこれはクジラのブリーチングだったのか??

揺れがどんどんひどくなってきて、Sさんは気分が悪くなってきたので降橋して船室へ。Mさんも蒼い顔してトイレに駆け込んでいた。2等客室の方へ行くと、通路で四つん這いになって唸っている人やトイレに駆け込んでいる人が結構いる。こりゃ大変だ。


とりあえず、甲板上にいたほうが気持ち悪くならないだろうと思って、Mさんと一緒に再度後部上甲板へ。波をかぶらない場所を確保して荒れ狂う海をずっと見ていた。もう歩くのも儘ならないほどの揺れで、どこかにつかまっていないと体ごと持って行かれそうだ。


艫(とも)からずっと海を見ていたら、小さいイルカが航跡上をピョンピョン飛び跳ねていた。後で聞いた話だが、航送波に戯れて飛び跳ねる種類のイルカとのこと(種類の名前は忘れた)。

父島が後方に霞み始めた頃(8時30分頃)、Tさんが来て、「こんなところにいないでブリッジに来なさい」と言われる。どうやら、私達が船室にいないので心配して2等客室の方まで私達を探しにいって下さったようだ。まさかこんな天候で甲板上に出ているとは思わなかったようで、なかなか私達を見つけられず、海中転落でもしたのではないかと心配していただいたようだ。すみませんm(__)m。

ブリッジに来てみると思った以上に船が波に翻弄されているのがわかる。特にピッチングがひどい。グーッと舳が沈み込み、その後、波に乗って一気に持ち上げられ、ブリッジの窓に波がざぶーんとかぶって前が全く見えなくなる、延々とこの繰り返し。手はブリッジの手すりにしっかりとつかまり、足は踏ん張っている状態が続く。

Mさんは気持ち悪いようで度々トイレに駆け込んでいた。Tさんと私は元気。こんな天候でも船内巡視に行かねばならない船員さんは大変だ。びちょびちょになったポンチョを来てブリッジに帰ってきたときは、よくぞ御無事でという感じだ。


当然、運航スケジュールは遅れている。到着予定の9時半になっても母島の島影が見えてきた程度。そのうち、右舷前方から黒い雲が…。どうやら今度は前線通過らしい。

次第に空が暗くなり、激しい雨が降り始め、視界が悪くなり、母島がまた見えなくなってしまう。ピッチングがさらにひどくなり、嵐の中の航海になってしまった。TVなどで北の海で操業する漁船の模様などを映していることがあるが、まさにあの状態。陸地も見えなくなった荒れ狂う海を見ていると恐怖感に押しつぶされそうになるが、船長をはじめとする船員さん達は落ち着いたものだ、船員さん達を見ていると「あー、まだこの程度ならばこの船は大丈夫なんだな」と安心させられる。


母島近くに潮目が変わるポイントがあるらしく、舵を切るタイミングが肝心なようだ。何とか乗り切って、再び母島が姿を現す。相変わらず風雨が強いが、揺れが少し収まってきた。

緑のブイを交わして左に転舵するとようやく母島・沖港が見えてきた。父島で「おがさわら丸」の隣に着岸していて、6時頃母島に向けて出港した「第二十八共勝丸」がさっきついたばかりのようだ。こちらもさぞかし大変な航海だったのだろう。


1h遅れの10時30分にようやく着岸。3h立ちっぱなし。あとで聞いた話だが、ここ数年、父島〜母島で3hもかけて運航したことはないそうだ。島の人でもなかなか経験できない難航海だったらしい。

船内の書類・表示関係の写真を撮ってから、下船状況、荷役状況をみる。

MさんとSさんは気分が悪くて動けない状態。母島での仕事のためTさんと私は急いで下船。風雨が強い。

船客待合所内にある母島観光協会へ行き、Tさんから駆け足で先方に説明をする。でも、「ははじま丸」は荷役が終わり次第出港なので、落ち着いて仕事をすることもできない。

結局、打ち合わせは10分程度、その後、沖港のターミナルをチェックして、すぐに本船へ戻る。3hかけて船に揺られて母島まで来たのに、上陸時間わずか15分!せめて1hでもいいから島内を見たかったなあ…。


さすがにこんな天候なので、父島行きの船に乗る人は少ない。


11時出港。また大揺れの海に舞い戻る。あー、たまんないね。気分の悪いMさん、Sさんにとっては地獄だろう。お二人とも帰りは船室で寝ているそうだ。気持ち悪くなってしまったら、もう仕方ないだろう。


帰りも引き続き、Tさんと私がブリッジに立つ。行きほど揺れを感じなくなってきた。三半器官が麻痺したのか揺れに慣れてきたのかよく分からないが…。

母島を出港して1hもすると、どんよりした空に次第に晴れ間が出るようになり、夏の陽ざしが降り注ぎ始める。海は実に美しいインディゴブルーに変わった。海の美しさにすっかり魅せられてしまった。今回の日記の表題はこの時の想いから付けたもの。


このように白波がかなりたっているので、仮にクジラが出てきても全然分からない。もっともこんな天気ではクジラなど出てくるわけもないが、父島〜母島航路はかなりの確率でクジラを目撃できるらしい。これも残念だな…。

父島に近づいてくると海鳥やトビウオがよく見られた。

帰りの揺れはピッチングからローリングに変わり、ブリッジの窓に波をかぶることがなくなり、左舷側から波しぶきが横に流れて、きれいな虹が…。


相変わらずかなり揺れていたが、父島が見えるようになってきてから幾分穏やかになったかにみえて気が緩んだのも束の間、また潮目の変化だ、次第に左舷側から大きな波が来るようになり、船員さんが「来るぞって」って言ってから、10秒後くらいに、左舷側がグーッと沈み込んだ後一気に波に持ち上げられ、その瞬間、「35度っ!」という声が聞こえた。最後まで油断ならないな。

さすがに今日は、父島周辺海域にダイビングボートやホエールウォッチングのボートは全く出ていない。また、今日二見港に入港予定であった商船三井客船渇^航のクルーズ客船「にっぽん丸」がどうやらこの天候で入ってこれなかったようだ。総トン数2万トンを超える大型船なので、水深の関係で二見港の岸壁には付けられないから、港内のブイに係留して、旅客は横づけした小型船に乗り換えて上陸することになるが、この天候では横づけは危険だと判断して、沖アンカーすることになったようだ。

ようやく港の入口まで戻ってきた。揺れも収まってきたが、それでもこの有様。いかにそれまでの揺れがすごかったかおわかりいただけるだろう。



母島から2時間半かけて13時30分に二見港入港。さっきの嵐がうそのように晴れ渡っている。


乗客の下船と荷役をみてから、ブリッジ内で各種関連書類を拝見し、その後、甲板上及び機関室をチェックして、船長に対して、監査結果の講評をしてようやく14時半前に下船。ひどい「おか揺れ」だ。下船してからの方が気分が悪くなりそうなくらいだ。


頭から潮をかぶっていて、全身がベタベタするので、「おがさわら丸」に戻ってシャワーを浴びて、作業着も洗濯する。

行きの船で私達がプチトマトに感動していたので、母島の小松農園というところから箱で取り寄せてくれた。1,617円でかなりの数が入っていた。あの美味しさなら決して高くないな。いいお土産になった。

その後、着替えて、Tさん、Sさんと昼食のため出かける。Mさんはまだ体調が戻らないらしくしばらく休むとのこと。

もう既に15時近くになっていまい、お店が軒並み昼休みに入ってしまっている。唯一、営業していたのが、"Heart Rock Cafe"。これってありですか??パク○でしょう。ここで、カジキマグロのフライがのったトロピカル風のカレーとマンゴジュースを注文。味はまあ普通かな。


その後、一旦船に戻ってから一人で散歩に出かける。
←パパイヤ
←タコノキ(小笠原固有種で村の木に指定)


ビーデビーデ:小笠原には桜がなく、卒業式や入学式シーズンのシンボルの花であることから南洋桜とも言われる。沖縄では「島唄」にも出てくる”でいご”と言われている。

Tさんに「とびうお桟橋近くの信号のところにメジロの巣があるよ、なかなか手に届くようなところで見れるもんじゃないから是非とも見ておけ」と言われていたので見に行く。風は相変わらず強いので、枝にある巣は大きく揺られていたが、親鳥はしっかりと雛を守って頑張っている。逆光だし、風で揺れていて写真に収めるのが大変だった。


その後、お土産をJA農産物観光直売所に買いに行く。小笠原のフルーツや野菜を買いに行くならばここがいいらしい。小笠原海運の方のおススメに従って、塩、島レモンジャム、パッションカード、島唐辛子味噌、パッションジャムなどを買う。


17時に船に戻ると今日の疲れがどっと出てきた。5時間半もあの大揺れの船で立ちっぱなしで手足を踏ん張っていたので疲れるわけだ。

夜は「ブーケ」というお店に連れて行っていただく。小笠原に来たら食べるべしというものがたくさん出てきた。




島周辺で取れた色とりどりの魚の刺身、亀の刺身、ゲソの唐揚げ、ステーキ、島トマトやセロリ、アナダコの唐揚げ、餡かけ焼きそば、島寿司、スターフルーツやモンキーバナナなどの島のフルーツ盛り合わせ

亀はもちろん島では乱獲するようなことはなく、ある程度の大きさになったものでなおかつ決められた数の捕獲しか認められていない。実際、島の人はあまり食べず、観光客用に提供されているようだ。

トマトは以前書いたようにフルーツのよう、セロリもあの特有の苦みがなく、瑞々しくて美味しい、これならセロリ嫌いの人でも食べられるだろう。聞いた噂では内地の苦いセロリが嫌いな人が小笠原で開発したとのこと。

スターフルーツは今は旬ではないようなので、甘味はいまいちだったが、瑞々しくて美味、モンキーバナナは3口サイズくらいだが、とても甘い。ちなみに、パッションは小笠原では二期作で栽培されていて、秋に採れるもののほうが夏の暑い日差しを浴びて甘みがグッと増すらしい。

島寿司は、ネタを漬けにして、ワサビの代わりにカラシを使っている。お祝いの時に出てきたり、内地に行く人に持たせるお弁当に入れたりするものらしい。えー、カラシなのと思うかもしれないが、全然違和感なく食べられてとても美味。

ここでも食事は大満足。小笠原でこんなにおいしいものにたくさん巡り合えるとは思っていなかった。

21時半に船に戻ってから、今日聞いたネタをメモする(この原稿を書くためですよ!)。疲れているのに小笠原最後の夜を惜しむかのように夜更かしをしてしまう。