乃南アサ「いちばん長い夜に」

◆読了日:2014/08/16
◆個人的評価:
◆「yom yom」連載 373ページ(新潮社・2013/01/30)


<あらすじ>

前科持ちの刑務所仲間―それが芭子と綾香の関係だった。”過去”に怯えながらも、東京の下町に居場所を見つけて、ゆっくりと歩き始めた時、二人は自分たちの大きな違いに気づき始める。人を殺めるとは何か。人が生きていくとは何か。亡くなった人間が残すものとは何か。そして、いつか、彼女たちの長い夜は明けるのだろうか?受苦の時代に暮らす全ての日本人に贈る、感涙の大団円。



<たーやんの独断的評価>

「いつか陽のあたる場所で」、「すれ違う背中を」に続く、前科持ち女性コンビを主人公とするシリーズ第3弾の完結編。

各短編ごとに冒頭で今までの経緯が簡単に書かれているので、それが煩わしく感じると思います。単行本化する時に手直しした方がよかったのではないでしょうか。逆に言えば、シリーズものとはいえ、本作品から読み始めて何ら支障はないということになります。

綾香の出身地が仙台、やはりと言うべきか予定調和的に大震災の話が出てきます。この大震災を題材にするということは、作家としての腕の見せどころだと思うんですが、その割には・・・という印象でした。

そして、あとがきを読んで驚きました。乃南アサさんは、本作品の執筆のために、あの3月11日に仙台日帰りで取材旅行をしているときに被災し、タクシー3台を乗り継いで命からがら戻ってきたという経験をされたようです。芭子の一晩かけて東京へ戻ってくるくだりは、その実体験を基に書かれています。

このシリーズはごくありふれた日常を切り取って淡々と描いていくというコンセプトだったようですが、被災した経験を書きとめておこうと思い、大震災という大事件を盛り込む方針の大転換をしてから波乱の展開となります。

芭子と綾香は明るい未来を切り拓いていけるのか…なかなか感動的なラストでした。