読了日:2011/08/10
個人的評価:(3.5)
「パピルス」連載・書き下ろし 265ページ(幻冬舎・2010/09/25)
<あらすじ> あれは本当に事故だったのだと、私に納得させてください。高校卒業以来十年ぶりに放送部の同級生が集まった地元での結婚式。女子四人のうち一人だけ欠けた千秋は、行方不明だという。そこには五年前の「事故」が影を落としていた。真実を知りたい悦子は、式の後日、事故現場にいたというあずみと静香に手紙を送る―(「十年後の卒業文集」)。書簡形式の連作ミステリ。 |
湊かなえさんの作品を読むのは「告白」、「少女」に続き3作目で、2年2カ月ぶりです。湊かなえさんの作品は軒並み受賞作で、図書館の予約待ちも出版されてそれほど間をおかないうちにあっという間に300番台になるほどの売れっ子作家です(この本も9カ月待ちました)。私には、前2作は女性読者のみをターゲットにしているのではないかと思えるくらいに共感できませんでしたし、読後感もあまりよくなかったので、それ以来ずっと敬遠してきましたが、今回久々に手に取ってみました。 私はあらすじ等の事前情報は得ずに読み始めるタイプなんですが、今回も目次を見ると「十年後の卒業文集」、「二十年後の宿題」、「十五年後の補習」とあるので、てっきり連作短編集若しくは長編だと思い込んで読んでいました。そして、普段から今読んでいるところが全体の何%くらいまできているか意識しながら読んでいることが多いですが、今回もそんな感じで読んでいたら、唐突に話が終わってしまいました。3つの話は何の関連性もない中編小説だったのです。こういうのってテンション下がりますよね…。 それはともかく、3つのお話はすべて手紙でのやりとりのみで構成されています。ありきたりな形式ではありますが、2つ目、3つ目のお話はなかなかよかったです。基本的に私は中編小説というのは本に入れ込んできた頃に終わってしまい、だからといって短編のような良さもないから、あまり好きではないんですが、この作品は手紙という形式をとりながらも、読者を2ページで作品の世界へと一気に引き込んでくれます。やはり文章が上手くて読みやすいからなんでしょうね。ちなみにいずれのお話も最後にどんでん返しが用意されています。心に残るというほどの作品ではないかもしれませんが、娯楽本としては良くできたお話だと思いますので、気になった方は読んでみたら如何でしょうか。ただ、ストーリー上、手紙形式をとる必然性がいまいち分からず、単に奇を衒っただけなんじゃないかなあという感じがしました。amazonのレビューを見ると、賛否両論のようです。 (つまらないツッコミですが…ネタバレ注意!) 3つ目の話「十五年後の補習」について、刑事法上の公訴時効をネタにしたラストのちょっとしたどんでん返しについて少し気になったことを一つ…。罪を犯した人が海外に逃亡等した場合、その海外にいる間は時効が停止するというのはドラマや本などでよく出てくるのでご存じの方も多いかと思います。それに関連して、最後の手紙の一番いい場面でやらかしちゃっています。あれ?なんかおかしいなと思ったので、後学のためにちょっと調べてみました。脅迫によって他人を自殺に追いやった場合、完全に意思の自由を奪うくらいの脅迫がある場合には殺人罪となりうる、ということですが、この作品の例では、これで殺人罪で起訴してもとてもじゃないけど公判を維持することはできないだろうと思います。ところが、殺人罪に問われることを前提に「きみはもう時効を迎えた。僕はまだだ。日本を離れているあいだはカウントされないからね。この事実に、僕はとても満足している。」と書いています。しかも、この作品が書かれた当時は殺人罪の時効は25年(現在は公訴時効なし)だったはずですが、表題には「”十五年後”の補習」となっています。ちょっとお粗末ですね…。もう少し考証しないとねえ(^_^;)。 |