読了日:2011/08/03
個人的評価:
「別冊文藝春秋」連載 333ページ(文藝春秋・2010/09/15)
<あらすじ> 「ヤドカミ様に、お願いしてみようか」「叶えてくれると思うで。何でも」やり場のない心を抱えた子供たちが始めた、ヤドカリを神様に見立てるささやかな儀式。やがてねじれた祈りは大人たちに、そして少年たち自身に、不穏なハサミを振り上げる―やさしくも哀しい祈りが胸を衝く、俊英の最新長篇小説。 |
本作品は第144回(2010年下半期)直木賞受賞作品です。道尾さんは第140回から4回連続でノミネートされながら、受賞を逃してきて、ついに本作品で受賞しました。過去のノミネート作品4作(「カラスの親指」、「鬼の跫音」、「球体の蛇」、「光媒の花」)のうち3作は読みましたが、どれもいい作品です。道尾さんは既に売れっ子作家であることは間違いありませんが、まだ35歳ですので、これから人生の脂の乗り切った時期に差し掛かり、さらに新境地を開拓してくれるのではないでしょうか。最近最も注目している作家さんの一人です。 読了するのに時間をかけ過ぎました。日々、就寝前に1、2ページ読んでは、電気をつけっぱなしのまま事切れているというのを繰り返していては、面白い本も訳が分からなくなってしまうというものでしょう。まあそうは言ってもそれではレビューにならないので少し感想を…。 このところ、道尾さんらしからぬ異色作を続けて読んできましたが、今回は独特の暗さを秘めた”道尾ワールド”が戻ってきた感じです。一貫して小学生の目線で描かれていますが、道尾さんは少年を主人公に据えた作品がお得意なのかもしれません(「向日葵の咲かない夏」、「球体の蛇」等)。 主人公の少年、その友人の少年、同級生の少女、そのいずれもが家庭に複雑な事情を抱えており、彼らの思春期にさしかかる前の微妙な心情や変わりゆく関係性が実に見事に描写されています。世の中のことが微妙に分かり始めてはいるものの、まだ子供らしい残酷さ(ヤドカリを神様に見立てて行う儀式が不気味です)も持ち合わせている、そんな年頃の繊細な感情をこれだけ絶妙に描ける作家さんは道尾さんくらいしかいないかもしれません。 今回は受賞を意識してのことか、ミステリー要素を排除して、隠喩を多用して詩的な表現が多いですが、私にはそれが少し無理をしているよう思えて、少し違和感を覚えました。それが★を一つ減らした理由です。 |