桐野夏生「ポリティコン」(上)・(下)


読了日:2011/04/23・2011/05/01
個人的評価:★★★☆☆
「週刊文春」・「別冊文藝春秋」連載 444ページ・412ページ(文藝春秋・2011/02/15)


<あらすじ>

大正時代、東北の寒村に芸術家たちが創ったユートピア「唯腕村」。1997年3月、村の後継者・東一はこの村で美少女マヤと出会った。父親は失踪、母親は中国で行方不明になったマヤは、母親の恋人だった北田という謎の人物の「娘」として、外国人妻とともにこの村に流れ着いたのだった。自らの王国「唯腕村」に囚われた男と、家族もなく国と国の狭間からこぼれ落ちた女は、愛し合い憎み合い、運命を交錯させる。過疎、高齢化、農業破綻、食品偽装、外国人妻、脱北者、国境…東アジアをこの十数年間に襲った波は、いやおうなく日本の片隅の村を呑み込んでいった。ユートピアはいつしかディストピアへ。今の日本のありのままの姿を、著者が5年の歳月をかけて猫き尽くした渾身の長編小説。【上巻】

唯腕村理事長となった東一は、村を立て直すために怪しげな男からカネを借りて新ビジネスを始める。しかし、村人の理解は得られず、東一の孤独は深まる一方だった。女に逃げ場を求める東一は、大学進学の費用提供を条件に高校生のマヤと愛人契約を結んでしまう。金銭でつながった二人だが、東一の心の渇きは一層激しくなり、思いがけない行為で関係を断ち切る。それから10年、横浜の野毛で暮らしていたマヤのもとに、父親代わりだった北田が危篤状態だという連絡が入る。帰郷したマヤは、農業ビジネスマンとして成功した東一と運命の再会をした。満たされぬ二つの魂に待ち受けるのは、破滅か、新天地か。週刊文春と別冊文藝春秋の連載が融合されて生まれた傑作小説、堂々の完結。【下巻】



<たーやんの独断的評価>

桐野夏生さんの最新刊です。

この小説は、大正時代に武者小路実篤等が提唱した「新しき村」と、トルストイが「イワンの馬鹿」の中で言及した「イワン国」を混ぜ合わせたような「コミューン」を舞台にした作品だそうです。比較的最近の作品である『東京島』の場合は、島に流されてやむを得ず集まった人間たちのコミュニティを描いていましたが、本作品の場合は掲げられた理想に賛同して集まるコミューンが描かれています。閉鎖的な共同体の中で人間関係がぐちゃぐちゃになっていく様が描かれている点はよく似ています。

今回は上下巻で読了するのに3週間もかかってしまいました。あまり読書の時間を割いていないということもありますが、何と言っても特に上巻が冗長でした。下巻になるとそれなりにストーリーも展開し始めて面白くなってきますが、結末は「これで終わり?」という感じでした。レビューを見るとまずまずの評価を得ているようですが、どうも私には物足りなかったですね。んー、このところ桐野さんは不振ですね…。「OUT」とか「グロテスク」のように強烈な印象として残るような作品がなかなか出ていませんね。比較的最近の作品のおススメは「女神記」です。もうそろそろ文庫化されるんじゃないかと思います。

ちなみに、ポリティコンとはソクラテスのいう「政治的動物」のことだそうです。