読了日:2011/03/29
個人的評価:★★★★☆(4.5)
「産経新聞」連載 469ページ(文藝春秋・2010/10/15)
<あらすじ>
西新宿の小さな中華料理屋「翡翠飯店」を巡る三代記。祖父母、両親、無職の叔父、孫に加えて、常に誰かしら出入りするゲストハウスさながらの大家族の足元には、大陸帰りの物語が眠っていました。祖父の死で虚脱してしまった気丈な祖母ヤエを伴った満州行が、封印された過去への旅の幕開けとなります。戦争、引揚げ、戦後を生き抜き、半世紀の間ヤエが抱えてきた思いを知った時、私たちが失いつつある美しい何かが頁の向こうに立ち上がってきます。 |
最近読んだ本の中では一番の「当たり」です。角田光代さんの本はほとんどハズレがないですね。年代・性別を問わない普遍性のあるメッセージを感じ取ることができると思います。
祖父母世代、父母世代、子ども世代の3世代の目線で、昭和・平成の史実や社会現象(満州からの引揚げ・学生運動・浅間山荘事件・新宿のバス爆破事件・オウム真理教・コギャル文化等々)を織り交ぜながら、ありふれた家族の姿を描いているだけなのに、読者を物語の世界にぐいぐいと引き込んでいきます。それに何と言っても登場人物の描写がとてもきめ細やかです。
ストーリーに一貫して出てくるのが、「逃げること」の意味です。祖母の最期の”探しモノの旅”での孫との会話で印象に残った一節を引用しておきます。もし気になったら本作品を読んでみてください。
「逃げるってことしか、時代に抗う方法を知らなかったんだよ。」
「あんたの親たちにね、逃げること以外教えられなかった。あの子たちは逃げてばっかり。それしかできない大人になっちまった。だからあんたたちも、逃げるしかできない。それは申し訳なく思うよ。それしか教えられること、なかったんだからね」
そして帰国後まもなく祖母は亡くなり、一家が新たな道を希望をもちつつ歩み始めるところで物語は終わります。読後感もとても爽やかです。
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