乃南アサ「地のはてから」(上)・(下)


読了日:2011/02/26・2011/03/03
個人的評価:★★★☆☆(3.5)
書き下ろし 304ページ・312ページ(講談社・2010/11/13)


<あらすじ>

物心ついたとき、少女はここで暮らしていた。おがちゃの背中と、あんにゃの手に、必死にしがみつくようにして。北海道知床で生きた女性の生涯を、丹念に描き、深い感動を呼び起こす。構想十年―書き下ろし長編小説。【上巻】

小樽での奉公を終え、知床に帰った少女は、かつて家族を救ってくれたアイヌの青年と再会する。一度きりのかなわぬ恋。そのとき少女ははじめて思う。人は自分の人生を、どこまで選び、決められるのか、と。厳しく美しい知床の自然に翻弄されながら、ひたすら大正から昭和の時代を生き抜く。感動の最終章。【下巻】



<たーやんの独断的評価>

乃南アサさんの最新作。乃南さんの作品を読むのは2年3カ月ぶりですが、しばらく読まないうちに作風がかなり変わったような気がします。以前はもっとイージーな感じ(読み捨て本)、よく言えば読みやすい作品だったと記憶しています。

主人公のとわは、大正3年生まれでちょうど私の祖母の同世代です。この作品の舞台は大正初期から昭和30年代までの北海道の最果ての地、知床です(知床=アイヌ語「シリエトク」が訛ったもので、”地のはて”の意)。かつて2回ほど訪れた地なので、親しみを持って読むことができました。

過酷な環境の中で、とわをはじめとする登場人物たちが必死に生き抜いていく姿がビビッドに描かれています。文字どおり開拓してようやく畑作を始めても冷害や虫害に悩まされたり、囲炉裏の火が燃え移って自宅が焼失してしまったり、アイヌ人との淡い恋愛があったり、地のはてにも戦争が大きな影を落としていたりと、とわの成長に合わせてこの時代の日常生活が描かれながら時代が流れていきます。

ただし、それ以上の劇的なことは特段起きず(もちろんこの時代のことですので、家族の中には、十分に育たずに亡くなってしまう子がいたり、また兵隊にとられたまま還らぬ人がいたりします)、かなり淡々としたストーリー展開です。なので、夢中で読めるかと言うと、そういう感じの作品ではありませんが、構想10年とあるだけあって、綿密な調査を重ねて書きあげられたことがうかがわれる大作であることは間違いありません。