読了日:2011/02/09
個人的評価:★★★☆☆
書き下ろし 299ページ(講談社・2010/09/17)
<あらすじ> 爆殺――その朝、英雄の夢が潰えた。 『中原の虹』完結から3年。 剛胆にして繊細。優しくて非情。流民の子から馬族の長にのしあがり、ついには中国全土をも手に入れかけた稀代の英雄・張作霖の、壮絶なる最期。 浅田次郎、14年ぶりの書き下ろし長編小説。 昭和3年6月4日未明。張作霖を乗せた列車が日本の関東軍によって爆破された。一国の事実上の元首を独断で暗殺する暴挙に、昭和天皇は激怒し、誰よりも強く「真実」を知りたいと願った――。「事件の真相を報告せよ」。昭和天皇の密使が綴る満洲報告書。そこに何が書かれ、何が書かれなかったか。いま解き明かされる「昭和史の闇」。息を呑む展開、衝撃の「真相」、限りなく深い感動、――傑作長篇小説の誕生! |
おなじみ浅田次郎氏の中国の壮大なロマンを描いたシリーズ第4弾です(「蒼穹の昴」、「珍妃の井戸」、「中原の虹」の続編。「珍妃の井戸」はスピンオフ的な位置づけ)。 「中原の虹」のラストから十数年経過した昭和初期の「張作霖爆殺事件」を題材にしていて、「中原の虹」の”長いエピローグ”と捉えてもらえればいいと思います。 春児、李春雷、元「万朝報」記者・岡圭之介、駐在武官・吉永将などおなじみの人々が、「蒼穹の昴」や「中原の虹」と同様、実在の人物に織り交ぜて登場します。彼らの年を経た姿を見ることができますので、過去のシリーズを読んできた方にとっては感慨深いと思います。 ストーリーは2つの目線で展開していきます。一つは天皇陛下の密命を帯びた陸軍中尉・志津邦陽による書簡(「マンチュリアン・リポート」)、もう一つは擬人化された蒸気機関車・龍鳳号(清国総督・李鴻章から西太后の誕生日に献上した英国の粋を結集して作られたもので、張作霖が爆殺された時に乗車していた蒸気機関車)のモノローグです。 過去のシリーズを読んでいない方にとっては、史実から類推したとしても意味不明なところが多くなると思いますので、少なくとも「中原の虹」を読了してからの方がいいと思います。一方、「中原の虹」まで読んできた方には是非とも本書を手に取っていただきたいと思います。これを読んでこそ、この長いストーリーは完結するはずです。ただし、はっきり言って大した作品ではありません(やっつけ仕事か??)。冒頭数十ページの序章は秀逸ですが、その後は、史実に沿って淡々と描かれているのみで、「蒼穹の昴」や「中原の虹」のような展開を期待するとがっかりすると思います。 本作品も若干蛇足的な印象が残りましたので、個人的にはこれ以上このシリーズを引っ張らずに、これで幕引きにしてもらいたいと思います。日中戦争を題材にして春児や溥儀の視点で作ったらそれなりに面白いでしょうが、ありきたりな小説になってしまったら、これまでの壮大なロマンを台無しにしてしまうことになりかねませんので…。 |