読了日:2010/12/17
個人的評価:★★★☆☆
「本とも」連載 221ページ(徳間書店・2009/08/31)
<あらすじ> 天才が同時代、同空間に存在する時、周りの人間に何をもたらすのか?野球選手になるべく運命づけられたある天才の物語。 山田王求はプロ野球仙醍キングスの熱烈ファンの両親のもとで、生まれた時から野球選手になるべく育てられ、とてつもない才能と力が備わった凄い選手になった。王求の生まれる瞬間から、幼児期、少年期、青年期のそれぞれのストーリーが、王求の周囲の者によって語られる。わくわくしつつ、ちょっぴり痛い、とっておきの物語。『本とも』好評連載に大幅加筆を加えた、今最も注目される作家の最新作!! |
昨年の秋に評判になっていた本で、予約者が多くて読むのを断念してそのままになっていた作品です。伊坂氏の作品としては異色作。舞台は伊坂氏の出身である仙台市を文字った仙醍市。 ストーリーは、「おまえ」という人物のことを外野から見ている者の口から語られていきます。「おまえ」と「語り手」は複数いて、何の断りもなく急に入れ替わります。「おまえ」が主人公の時もあれば、第三者のときもあり、かなり読みにくさを感じると思います。 驚異的な選球眼を持ち、ストライクズーンに入るボールはことごとくホームラン、打率10割も夢ではない、と主人公の設定は極めて現実離れしています。ちなみに「キング」とは「王」になるために生まれてきた者、仙醍キングスの「キング」からきています。 このように並はずれた才能を持つ人間の周りではどういうことが起きるのかということがこのストーリーのメインテーマです。3歳にしてプロ選手のスイングをTVで見真似て完璧なスイングをしたこと、小学生ではプロの全力投球の球をホームランしたこと、リトルリーグでは両親が相手チームの監督に付け届けをして敬遠しないように頼み込んでいたことが問題になりやめざるを得なかったこと、そうこうするうちに彼の周囲の人々の心は歪められていきます。それによって主人公や彼を取り巻く周囲の人々に悲劇が襲います。野球を題材にしていますが、爽やかなストーリー展開ではありません。 シェイクスピアの作品の引用などしながら、前半部分から結末を暗示するようなくだりがいくつか出てきます。おそらく伊坂ファンにはこういうところがたまらないのでしょう。個人的には読後感はいまいち、あまり印象に残らなかったストーリーです。3人の魔女や奇妙な怪物が登場するところはファンタジックでやや違和感がありました。 ただ、あまり深く考えずに、単純に読み物としてはまずまず面白いと思います。 |