伊坂幸太郎「オー!ファーザー」

読了日:2010/05/19
個人的評価:★★★☆☆
「信濃毎日新聞」等連載 361ページ(新潮社・2010/03/25)

<あらすじ>

みんな、俺の話を聞いたら尊敬したくなるよ。我が家は、六人家族で大変なんだ。そんなのは珍しくない?いや、そうじゃないんだ、母一人、子一人なのはいいとして、父親が四人もいるんだよ。しかも、みんなどこか変わっていて。俺は普通の高校生で、ごく普通に生活していたいだけなのに。そして、今回、変な事件に巻き込まれて―。



<たーやんの独断的評価>

伊坂幸太郎氏の最新刊。肩ひじ張らずに読める本なので、通勤電車の中などで読むのにうってつけだ。ただ、全く章立てされていない(最近読んだ本で全く章立てされていない本はなかったかも)ので、ストーリーの切れ目が分かりにくい。

母1人、子1人に、父が4人!しかも誰が本当の父親か分からないのに6人が一つ屋根の下に暮らしているというあり得ない設定。父親たちはそれぞれ何かに秀でていて、魅力的なキャラ(悪くいえば極めてステレオタイプ的)。それぞれが、自分こそが息子と血がつながっていると信じていて(DNA鑑定すらしていない)、誰よりも自分こそが息子を愛していると信じている。一方で息子の一大事となれば彼らのチームワークの威力はいかんなく発揮される(事件に巻き込まれた息子を見事に救い出す場面は本作品の最大の見どころ)。どこぞの総理大臣と同じ名前の主人公の息子は小さい時からそんな父親たちから多くのことを学び、ちょっと斜に構えたちょっとクールな高校2年生で、父親たちからいいところを受け継いでいるのか何でも器用にこなす。そんな父子間の愛情に裏打ちされた会話は漫才の掛け合いのようにユーモアにあふれていて何とも微笑ましい。

いつもの伊坂作品と比べると特に前半部分はかなり淡々としたストーリー展開なので、いつでも中断できてなかなか読み進められず。スピード感に欠けるし、読む手を止められないというようなこともなく、最近の伊坂作品を好む方にとっては相当物足りなさを感じるだろう。ただ、ちりばめられた伏線はラスト30ページできれいに繋がるところは圧巻。無駄な描写はほとんどなく、前半に出てくるちょっとした描写も後で意味を持たせるところはさすがだ。これが伊坂ファンを虜にしているのだろう。読後感もとても爽やか。

ちなみにあとがきに書いてあったが、本作品の連載は4年近く前なので、かなり前の作風に分類されるそうだ(「ゴールデン・スランバー」と同時期)。