読了日:2010/04/28
個人的評価:★★★☆☆
「週刊新潮」連載 416ページ(新潮社・2010/02/25)
<あらすじ> 昭和十七年、南方へ命懸けの渡航、束の間の逢瀬、張りつく嫌疑、そして修羅の夜。波瀾の運命に逆らい、書くことに、愛することに必死で生きた一人の女を描き出す感動巨編の誕生。女は本当に罪深い。戦争に翻弄された作家・林芙美子の秘められた愛を、桐野夏生が渾身の筆で灸り出し、描き尽くした衝撃の長篇小説。 |
桐野夏生氏の最新作。表題の「ナニカアル」は、林芙美子の「北方部隊」の冒頭にある詩の一節からとられているそうだ。虚実を織り交ぜた林芙美子の評伝小説で、桐野氏が乗り移って林芙美子の未発表作を書いているかのようなタッチだ。 プロローグとエピローグは平成に入ってからの林芙美子の関係者による手紙のやり取りで、本編部分は、破竹の進撃も止まり敗色が見え隠れする昭和18年にスポットを当てて、南方に派遣された時の出来事を日記形式で描いたものである。軍部の要請で南方へ派遣されるが、それも戦意高揚の記事を書かせるため…。書きたいことも書けず、作家として手足をもがれたような苦しみや孤独感に苛まされ、一方で新聞記者等との秘められた不倫、その結果の妊娠など、当時としては常識外れの自由奔放な性も描かれている。 今回は読了するのに2週間近くも要してしまい、集中して読めていないし、林芙美子という作家のことも「放浪記」の作者という程度しか予備知識がなかったこともあり、評価は難しいところだが、本作品は、桐野氏にしてはいつものグロテスクさが鳴りをひそめ、意外に淡々と書き進められているので、桐野ファンには物足りなさを感じるかもしれない。ただ、戦前・戦中・戦後の波瀾の人生があたかもすべて真実であるかのようなリアリティを感じさせてしまうところはさすがだ。実在の作家を描いたにしては内容がかなりスキャンダラスで、問題作だと言えるだろう。 |