読了日:2010/04/14
個人的評価:★★★☆☆
「GOETHE」連載 302ページ(幻冬舎・2009/11/25)
<あらすじ> 定年を四年後に控えた、しがない財務官僚・樋口慎太郎と愚直だけが取り柄の自衛官・大友勉。二人が突如再就職先として斡旋されたJAMS(全国中小企業振興会)は、元財務官僚の理事・矢島が牛耳る業務実体のない天下り組織。その体質に今イチ馴染めない樋口と大友は、教育係となった秘書兼庶務係の立花葵から、ある日、秘密のミッションを言い渡される…。 |
最近のキーワード「ハッピー・リタイアメント」。これもあと10年もしたら死語になるのではないか…。本作品は浅田氏流のコメディータッチな「幸福論」というところだろうか。天下りした財務官僚と元自衛官はずっと人生割を食ってきて、秘密のミッションを遂行して果たしてハッピー・リタイアメントを迎えたのか?? 浅田次郎氏のコミカル系の作品を読むのは久々。慎ちゃん、ベンさん、アオイ、ヒナ、矢島…と個性的な面々、少々キャラがデフォルメされているきらいはあるものの、それぞれの個性が丁寧に描かれている(若干くどさも感じつつも…)。全般的に物語を進めていく目線が定まらないし、ストーリーはあっちこっちに飛ぶしで、小説としての完成度はどうなのかという問題はあるが、文章は読みやすく、作品の世界に入っていきやすい。天下り天国の実態、無駄にある公益法人の問題などをシニカルに描いてみせたり、日本の世襲制や終身雇用を歴史的、社会的観点から論じてみたりするかと思えば、随所に笑いも散りばめられており、読者を飽きさせない工夫があちこちになされている。ただ、ネタバレになるのでここでは書かないが、結末は靄がかかったようなまま終わってしまい、どうも読後感がすっきりしない。まあ「物質的なしあわせ」より「精神的なしあわせ」というありきたりなことを言いたいのだろうが…。ちょっともう一つひねり欲しかったところだ。 ちなみにプロローグで書かれている内容は実話だそうだ。 |