夏川草介「神様のカルテ」

読了日:2010/03/25
個人的評価:★★★☆☆
書き下ろし 205ページ(小学館・2009/09/01)


<あらすじ>

栗原一止は信州の小さな病院で働く、悲しむことが苦手な内科医である。ここでは常に医師が不足している。専門ではない分野の診療をするのも日常茶飯事なら、睡眠を三日取れないことも日常茶飯事だ。そんな栗原に、母校の医局から誘いの声がかかる。大学に戻れば、休みも増え愛する妻と過ごす時間が増える。最先端の医療を学ぶこともできる。だが、大学病院や大病院に「手遅れ」と見放された患者たちと、精一杯向き合う医者がいてもいいのではないか。悩む一止の背中を押してくれたのは、高齢の癌患者・安曇さんからの思いがけない贈り物だった。第十回小学館文庫小説賞受賞作。



<たーやんの独断的評価>

夏川氏は、本作品の主人公と同様、長野県で地方病院に勤務する現役の医師。本作品で作家デビュー。最近はやりの医療小説。昨年、飛ぶように売れていた本で、予約をかけてから半年待たされた本。本作品は来月に大賞が発表される2010年本屋大賞にもノミネートされている。

地方病院の劣悪な勤務環境、終末医療問題、医局制度等を織り交ぜながら主人公の目線でストーリーが展開していく。ひと言でいえばとても「いい話」、登場人物もみんな「いい人」、終末医療の問題を取り上げているにもかかわらず、読後感はとても爽やか。でも何か物足りなさを感じる…。病院の場面だけがやけにリアリティがあって、人間模様は作られた感が強いからだろうか。またユーモアにあふれているのはいいのだが、若干登場人物の発言にくどさを感じる。

ただ、読みやすく、ストーリーも分かりやすいし、中編小説なので、お手軽に読める。世間の評価も高いようなので、素直な気持ちで受け止めれば楽しめること間違いないと思う。