白石一文「ほかならぬ人へ」

読了日:2010/03/08
個人的評価:★★★☆☆
「Feel Love」連載 295ページ(祥伝社・2009/11/05)


<あらすじ>

二十七歳の宇津木明生は、財閥の家系に生まれた大学教授を父に持ち、学究の道に進んだ二人の兄を持つ、人も羨むエリート家系出身である。しかし、彼は胸のうちで、いつもこうつぶやいていた。「俺はきっと生まれそこなったんだ」。
サッカー好きの明生は周囲の反対を押し切ってスポーツ用品メーカーに就職し、また二年前に接待のため出かけた池袋のキャバクラで美人のなずなと出会い、これまた周囲の反対を押し切って彼女と結婚した。
しかし、なずなは突然明生に対して、「過去につき合っていた真一のことが気になって夜も眠れなくなった」と打ち明ける。真一というのは夫婦でパン屋を経営している二枚目の男だ。「少しだけ時間が欲しい。その間は私のことを忘れて欲しいの」となずなはいう。
その後、今度は真一の妻から明生に連絡が入る。彼女が言うには、妻のなずなと真一の関係は結婚後もずっと続いていたのだ、と。真一との間をなずなに対して問いただしたところ、なずなは逆上して遂に家出をしてしまう。
失意の明生は一方で、個人的な相談をするうちに、職場の先輩である三十三歳の東海倫子に惹かれていく。彼女は容姿こそお世辞にも美人とはいえないものの、営業テクニックから人間性に至るまで、とにかく信頼できる人物だった。
やがて、なずなの身に衝撃的な出来事が起こり、明生は…。



<たーやんの独断的評価>

第142回直木賞受賞作品。白石一文氏の作品を読むのは2作目。本作品は「ほかならぬ人へ」と「かけがえのない人へ」の中編小説2篇からなる。

どちらの作品もこれといって特徴のない恋愛小説だ。「売れる本」かと言われればそれについては納得できるが、これが直木賞を受賞するほどの作品かと言われると…。「ほかならぬ人へ」が★×3.5、「かけがえのない人へ」が★×2.5というところだろうか。エンターテイメント性はまずまず高いと思うが、内容には奥行きがなく、特別に感じ取れるようなメッセージもない。単純に読んで楽しめるという意味で直木賞にふさわしいのかもしれないが、全然文学の香りがしてこない作品が受賞するというのもさみしい気がする。本作品が直木賞を受賞していなかったら、出会っていなかったかもしれない。