天童荒太「静人日記」

読了日:2010/03/07
個人的評価:★★★★☆
「オール讀物」連載 325ページ(文藝春秋・2009/11/25)


<あらすじ>

新聞の死亡記事を見て、亡くなった人を亡くなった場所で「悼む」ために、全国を放浪する坂築(さかつき)静人。死者の周辺の人々から疎んじられ、罵声を浴びせられることもあるが、時にはあなたの行為で救われたと、感謝されることもある――。さまざまな死者と生者との出会いと別れを繰り返す静人。その終わりなき旅の日々が、端整な筆致で記されていく。直木賞受賞作『悼む人』の主人公の日記という体裁をとった異色の小説は、『悼む人』を読んだ方はもちろん、未読の方にもこの素晴らしい作品世界へのイントロダクションになるであろう。



<たーやんの独断的評価>

「悼む人」の主人公・坂築静人の日記形式の小説。天童氏は一日一度静人に同化する時間を作るために3年にもわたって静人の立場になって日記をつけてきた。本作品はそれを基にして7か月間の「悼む」という行為について静人の目線のみから書かれたものである。

ほんとに日付があり淡々とその日の悼み・静人の内面が書かれているだけなので、さすがにこれは読むのがしんどいなあと思ったが、なぜかいつの間にか日記にひきこまれていく。日々の淡々とした記録にもかかわらず、読者の胸に大きく響いてくることだろう。やはり天童氏の全身全霊をかけたテーマだからなのだろうか。後半は、現世にいる人々とのふれあいが生き生きと描かれており、より小説的なテイストになってくる。「悼む人」での静人は人間離れした存在だったが、今回は少しは人間臭さを感じ取ることができ、むしろ「悼む人」よりも作品世界に入りやすいかもしれない。

上記の本作品の紹介では「悼む人」未読の方にもすすめているが、私は「悼む人」を読んでからでないと手にするのはやめたほうがよいと思う。「悼む人」を読まないと単に誰か知らない人の日記を読まされているような感じになってしまうだろう。本作品はあくまでも「悼む人」のより深い理解に役立つものだと思うので、できれば両作品を間をあけずに読んだ方がよいと思う。

今回も落としどころというかゴールが見えてこないまま終わっているので、「悼む人」、「静人日記」の構想には数年以上の時間をかけているんだし、これで終わりにせずに続編を出してくれることに期待したい。特に静人と遥香の今後については興味深いところだ。