荻原浩「ひまわり事件」

読了日:2010/02/03
個人的評価:★★★★★
「別冊文藝春秋」連載 495ページ(文藝春秋・2009/11/15)


<あらすじ>

老人ホーム「ひまわり苑」と「ひまわり幼稚園」はお隣同士。妻を亡くし「苑」に入居した益子誠次は子供嫌いだったが、物の道理を教えるためあえて幼稚園児と一緒にひまわりの種を植えた。経営が同じ「苑」と「園」には実はさまざまな不正の疑いがあるが、老人と子供たちは非力ゆえになかなか糾すことができない。しかしある日、訳ありの「苑」の入居者・片岡さんがとうとう決起、誠次と子供たちと一緒にバリケード封鎖を敢行する。老人と子供が手を組んだとき、奇跡は起こるのか?すべての世代に送る「熱血幼老小説」。



<たーやんの独断的評価>

荻原浩氏の最新刊。舞台は老人ホーム「ひまわり苑」と学校法人「ひまわり幼稚園」で、両施設は地元の県会議員の経営する系列施設である。場面は、園児、老人、幼稚園の先生の視点でかわるがわる描写されて、ストーリーは展開していく。

久々に面白い本に出会えた。幼児と老人とのふれあいがテーマになっており、ありふれたものであるが、それぞれの視点からコミカルかつシニカルに描かれており、笑いどころ満載。私も老人ホームの隣にある保育園に通っていて、しかも両施設は経営者が同じという環境で育ったので、お年寄りと触れ合う場がよくセットされていたのはおぼろげながら記憶に残っている。園児からすると老人たちは妖怪にしか見えず、老人からすると園児たちはただの騒音、これを交流させようとしていろいろと無理が生じることになる。接点がまるでないのだ。

幼稚園と老人ホームはそれぞれ大きな問題を孕んでいた。問題児たちは劇の配役などで子供心にも傷つけられ、老人たちは施設のやり方に反発するものが出てくる。問題児たちはひまわりを育てることや麻雀を介して少しずつ一部の老人たちとうちとけあうようになってくる。そんな中、ついに元・全学共闘会議議長の片岡が立ち上がった。幼稚園のやり方に反発する園児たちとともに一部の老人たちはバリケードを組んで老人ホームの3階の一角に立てこもる。ここからは結末まで読むのをやめられなくなることだろう。

まるで実在する両施設を見てきたかのような生き生きとした描写、巧みなストーリー展開に読者は本の世界に引き込まれる。読後感も極めて爽やか。さすが荻原氏は上手いな。読むのを止められなくなるので、寝不足にご注意!