道尾秀介「向日葵の咲かない夏」

読了日:2010/01/14
個人的評価:★★★☆☆
書き下ろし 470ページ(新潮文庫・2008/08/01)


<あらすじ>

夏休みを迎える終業式の日。先生に頼まれ、欠席した級友の家を訪れた。きい、きい。妙な音が聞こえる。S君は首を吊って死んでいた。だがその衝撃もつかの間、彼の死体は忽然と消えてしまう。一週間後、S君はあるものに姿を変えて現れた。「僕は殺されたんだ」と訴えながら。僕は妹のミカと、彼の無念を晴らすため、事件を追いはじめた。あなたの目の前に広がる、もう一つの夏休み。



<たーやんの独断的評価>

今日、直木賞の発表があった。ノミネートされていた「球体の蛇」は残念ながら落選。このところ連続して直木賞にノミネートされており、直木賞に最も近い人の一人。道尾氏の作品を読むのは「シャドウ」、「鬼の跫音」に続き3作目。

主人公であるミチオの視点からの描写で展開していき、「***」のあとに近所に住む老人・古瀬泰造の視点からの描写が挿入される形でストーリーが進んでいく。読了した前二作と同様、読者を錯誤させておいて、ラストでどんでん返し、ちりばめられた伏線はすべて片づけられるという見事な展開だ。ただ、主人公の描写が真実を巧みに覆い隠しているため、読者は確実に勘違いをしたまま読み進めることになるので、推理小説としては若干アンフェアな感じもあるが、モノの本によればこういう手法もあるとのこと。

ネタバレになるので具体的には書かないが、ラスト50ページで様々な真実が明かされていき、現実の世界と幻想の世界との境目が分からなくなるかもしれない。また推理小説では登場人物が殺されることはごくごく当たり前だが、本作品は人が殺されること以上の薄気味悪さが一貫して流れており(実際に殺される人はほとんどいない)、何とも読後感が悪い。