奥田英朗「無理」

読了日:2009/12/10
個人的評価:★★★☆☆
「別冊文藝春秋」連載 543ページ(文藝春秋・2009/09/30)


<あらすじ>

合併でできた地方都市、ゆめので暮らす5人。相原友則―弱者を主張する身勝手な市民に嫌気がさしているケースワーカー。久保史恵―東京の大学に進学し、この町を出ようと心に決めている高校2年生。加藤裕也―暴走族上がりで詐欺まがいの商品を売りつけるセールスマン。堀部妙子―スーパーの保安員をしながら新興宗教にすがる、孤独な48歳。山本順一―もっと大きな仕事がしたいと、県議会に打って出る腹づもりの市議会議員。出口のないこの社会で、彼らに未来は開けるのか。



<たーやんの独断的評価>

奥田英朗氏の最新刊。同氏の「最悪」、「邪魔」と同系統のストーリー。今回は上手い具合に予約を入れることができて、比較的早めに手に取ることができた。550ページ弱の長編だが、ジェットコースター・ストーリーなので、普通に読んでいても3,4日で読了できる。

とりたてて産業がなく、大規模店舗に追いやられる形で商店街はシャッター街化していく疲弊した地方都市・ゆめの市で暮らす5人が主人公。5人の物語が同時並行的に順番に描かれて展開していく。

小さな町の出来事なので、5人の生活は時にクロスしかけるが、夢も希望もない街で5人それぞれは面倒な事件等に巻き込まれて不幸の連鎖から抜け出せなくなり、後戻りのきかない道を進み続ける。地域間経済格差、生活保護の不正受給、引きこもり、不倫ビジネス、高齢者に集る詐欺集団、公共事業に絡み合う黒い利害関係、新興宗教の対立などテーマは盛りだくさん。そして窮地に陥った5人がついに”谷底の交差点”で落ち合う。

「えっ、これで終わり?」という唐突な結末には呆気にとられる。ラスト50ページを破り取られた乱丁本をつかまされたような感じで、すっきりしない終わり方だ。おそらく、表題はラストシーンの設定に無理があることからつけられたのではないかとすら思える。あまりにもテーマを広げすぎて収拾がつかなくなって、放り投げてしまったのではないかとさえ思える。今までの500ページは何だったんだ!!いずれにしてもこの5人に未来はない。読者にはどうしようもない閉塞感だけが残ることだろう。

ただ、奥田氏の読者の心をつかむ力はさすがで、私の場合は結末だけがしっくりこなかっただけで、読み終わる直前までは★を4つにするか5つにするか迷っていたくらいだ。好みは分かれるかもしれない。いずれにしても、就寝前に読むとやめられなくなるので気をつけられたし。