歌野晶午「絶望ノート」

読了日:2009/12/02
個人的評価:★★★★★
書き下ろし 382ページ(幻冬舎・2009/05/25)


<あらすじ>

いじめに遭っている中学2年の太刀川照音は、その苦しみ、両親への不満を「絶望ノート」と名づけた日記帳に書き連ねていた。
そんな彼はある日、校庭で人間の頭部大の石を見つけて持ち帰り、それを自分にとっての”神”だと信じた。神の名はオイネプギプト。エスカレートするいじめに耐えきれず、彼は自らの血をもって祈りを捧げ、いじめグループ中心人物の殺人を神に依頼した。「オイネプギプト様、是永雄一郎を殺してください」―はたして是永はあっけなく死んだ。しかし、いじめはなお収まらない。照音は次々に名前を日記帳に書きつけ神に祈り、そして級友は死んでいった。不審に思った警察は両親と照音本人を取り調べるが、さらに殺人は続く―。



<たーやんの独断的評価>

歌野晶午氏の作品を読むのは「葉桜の季節に君を想うということ」に続き2作目。400ページ弱の2段組なのでかなりのヴォリュームだ。主人公・太刀川照音が心の内を切々と綴った「絶望ノート」を引用した章、彼を取り巻く人々(彼の両親・クラスメイト・教師など)の視点で描かれた章を織り交ぜながら展開していく壮絶な9ヶ月間。

彼に対するいじめはエスカレートし、ついにはクラスメート等に殺意を覚え、彼らに死を給えと神に祈り続ける。間もなく、願いが叶ったのか、彼らに次々と不幸が降りかかる。このような展開が後半まで続く。様々な伏線を張りながら読者をひきつけていくので長さを感じさせない。これがよくあるいじめに対する単なる復讐劇だったとしても、ミステリーとして十分面白く読めた。そして、ラスト20ページで想像すらできないどんでん返しが待っていた。あまりのことにストーリー読み間違ったかと思うくらいの衝撃があった。上手いことにそれまで張られていた伏線とも矛盾せず、収束させていたように思える。冷静に読めば破綻しているところもあったのかもしれないが、急展開に頭が付いていかず、また次の展開が気になってページを繰る手がとまらなくなり、エンディングへ向けて一気に読了してしまった。私はまさに歌野氏の思惑通りにきれいに騙された口だろう。ここでネタをばらしては何にもならないので、気になった方は本作品を手に取ってみては如何か。

ストーリーは人間不信になってしまいそうなほどダーク一辺倒で全く救いがない。人間の醜悪さをこれでもかというくらい見せつけられる。正常の感覚の持ち主ならば、クスリとも笑える箇所はないだろう。もう少し照音が人を信じる心を持ち合わせていれば、こんなことにはならなかっただろうに…。まあそれだけ彼は様々なことに苦しんでいたのだろうが…。