道尾秀介「鬼の跫音」

読了日:2009/10/26
個人的評価:★★★☆☆
「野性時代」連載 228ページ(角川書店・2009/01/31)


<あらすじ>

心の中に生まれた鬼が、私を追いかけてくる。-もう絶対に逃げ切れないところまで。一篇ごとに繰り返される驚愕、そして震撼。ミステリと文芸の壁を軽々と越えた期待の俊英・道尾秀介、初の短篇集にして最高傑作。



<たーやんの独断的評価>

2009年第141回直木賞ノミネート作品。道尾氏の作品を読むのは「シャドウ」に続いて2作目。「鈴虫」、「ケモノ」、「よいぎつね」、「箱詰めの文字」、「冬の鬼」、「悪意の顔」の6篇からなる短篇集。

6つの作品に共通して鴉(からす)とSという人物が出てくるが、連作ではない。Sは得体のしれない不気味な人物で、各主人公にとって煩わしい存在であるという共通点はあるものの別人である。背筋にゾクゾクとくるような薄気味悪さが漂っており、後味の悪さが尾を引いてすぐに次の話に入っていけないほどだ。テイストがバリエーションに富んでおり、読者を飽きさせない。読者を強烈にストーリーへと引きずりこむ上手さはさすがと言うほかはない。短いストーリーの中に人間の悪意が凝縮されている。ただ、短編だから仕方ないのだが、あまりにも呆気なく結末を迎える、しかもその結末にリアリティが乏しいこともあり、どうしても物足りなさが残ってしまった。全体的に読み飛ばし気味で読了したせいもあるかもしれないが…。