貫井徳郎「夜想」

読了日:2009/10/12
個人的評価:★★★☆☆
「別冊文藝春秋」連載 447ページ(文藝春秋・2007/05/30)


<あらすじ>

突然の事故で、目の前で最愛の妻と娘を亡くした雪藤。生きる気力を無くした彼の運命は、美少女・遙と出会って大きく動き始める。新興宗教をテーマにあの「慟哭」から14年。魂の絶望と救いを描く傑作長篇。



<たーやんの独断的評価>

本作品は今のところ単行本のみだが、11月頃に文庫化されるらしい。1ページの文字数がかなり多くて450ページ弱あるので、おそらく2分冊になるだろう。

新興宗教をテーマにその内部から描いている点がとても興味深い。ただ、天美遥にカリスマ性を与えることとなった物に触れるとその物にこもった記憶が読みとれるという能力というのが胡散臭いことこの上ない。個人的にはこの手の話はリアリティ感に乏しくて、つい一歩下がって見てしまい、いまいち物語の世界に入り込めない。また、耐えがたい悲しみや不幸のどん底に直面した時に宗教に救いを求めるという行為に共感できないということも評価に作用したのかもしれない。

宗教に対して救済を求めることに懐疑的な人は、本作品のテーマを新興宗教ととらえずに、「癒し」や「救い」をテーマにしたヒューマンドラマだと思って読めば楽しめるのではないかと思う。実際、主人公である雪藤もこれは宗教ではない、あくまでも遥の人柄や考え方に共感して自然発生的にできた「組織」であると思い込んでいるわけだから。

結末についてはここでは明かさないが、ある程度予想通りの展開だと感じる部分と、全く予想を覆すような展開だと感じる部分とあるのではないかと思う。ラスト100ページで次々と問題が噴出して、目まぐるしい展開に読者を惹きつけて読むのをやめさせない。後半部分を寝る前に読み始めるとやめられなくなるので寝不足に要注意。

(追記)
★×3にしていますが、それはあくまでも貫井氏の他の作品と比べるとテーマや展開のスピードに関して落ちると思ったからで、評価が激辛になっていることは否定できません。