山崎豊子「運命の人」






読了日:(一)2009/10/06、(二)2009/10/08、(三)2009/10/28、(四)2009/10/30
個人的評価:★★★★☆
「文藝春秋」連載
(一)251ページ(文藝春秋・2009/04/25)
(二)253ページ(文藝春秋・2009/04/25)
(三)268ページ(文藝春秋・2009/05/30)
(四)282ページ(文藝春秋・2009/06/30)


<あらすじ>

(一)毎朝新聞政治部記者、弓成亮太。政治家・官僚に食い込む力量は天下一品、自他共に認める特ダネ記者だ。昭和46年春、大詰めを迎えた沖縄返還交渉の取材の中で、弓成はある密約が結ばれようとしていることに気づいた。熾烈なスクープ合戦の中、確証を求める弓成に蠱惑的な女性の影が―。
(二)「弓成亮太、逮捕する!」ペンを折られ苦悩する弓成、スキャンダル記事に心を乱す妻・由里子。夫婦の溝は深まり、子どもたちも動揺を見せ始めた時、大野木正を中心とする弁護団の真摯な励ましが二人を支えた。そしてついに、初公判の朝が訪れた。
(三)国家機密は誰のためのものか?密約を追及する弁護団の前に立ちふさがる、強大な権力。記者生命を失った弓成が見た光景とは―。徹底した取材と執筆に十年をかけた壮大なドラマ、いよいよ佳境へ。
(四)舞台は沖縄へ―。曲折の末、弓成は沖縄へやってきた。様々な人々に出会い、語らううちに、かつて沖縄返還取材に邁進しながら、見えていなかった沖縄の現実に直面する。再びノートとペンを手にした弓成の元に、あの密約を立証する公文書が発見されたというニュースが飛び込んできた。誇り、家族、一生を賭けるつもりだった仕事。すべてを失った男が彷徨の末、再生への道を歩き出した時、アメリカから届いた思いがけない報せが真実の扉をこじ開ける。感動の巨編、ここに完結。



<たーやんの独断的評価>

予約して半年、ようやく手元に来た。図書館で借りたので仕方ないとはいえ、予約待ちの関係で2巻と3巻の間で3週間ブランクがあいてしまったのがかなりイタい…。結局、着手から読了まで1カ月かかってしまった。集中して読みたいならば、購入することをおススメする。但し、全巻買うとなると6,400円。

山崎豊子氏の10年ぶりの新作。大スクープか取材源の秘匿か、極秘文書を入手した男の懊悩と予期せぬ運命の変転を描いた作品である。相変わらず女流作家とは思えないようなスケールの大きなテーマを題材にしており、200近くの参考文献を参照し、7年あまりの取材活動が結実した集大成。「不毛地帯」はドラマ放映中、「沈まぬ太陽」は映画化されており、近年でも、「白い巨塔」、「女系家族」、「華麗なる一族」、「大地の子」などがドラマ化されているなど、現在もっとも注目されている作家の一人だ。84歳という年齢を考えると本作品が最後の長編になるのかもしれない。

現在、岡田外相が外務省内に沖縄返還関係の密約問題の徹底調査を指示しているところで、非常にホットなテーマでもある。密約文書の開示請求に関する訴訟(主人公・弓成亮太のモデルになっている元毎日新聞社記者・西山太吉氏らが原告)で12月には沖縄返還当時の外務省アメリカ局長・吉野氏らの証人尋問が行われることが決まり、最近でも新聞紙上を賑わせている。

本作品では、私のように法律の勉強をしてこなかった法学部卒でも知っているあの「西山記者事件」を取り上げている(憲法第21条の「表現の自由」から派生する「報道の自由」、「知る権利」について憲法判断がなされたことで有名)。判決が出たところでストーリーが終わるのかと思っていたが、敗訴した主人公が沖縄に移り住み、その後、日米関係を揺るがすことになる米兵の女児暴行事件、米軍機の沖縄国際大学への墜落などにも焦点を当てているところが一層ストーリーに奥行きを持たせている。

ストーリー中、日米の外交関係、憲法解釈など、アカデミックな内容にもかなり触れており、少なくともベッドに寝っ転がって読むような本ではないと思う。長期間の取材や大量の参考文献で得た情報のうち、エキスだけが抽出されて書かれているのだと思うが、当然のことながら、その背景には膨大な事実があり、その理解なしには本作品の凄さは分からないのではないか。私自身もそのあたりの知識が十分でないため、どうしても理解がおろそかになってしまった。個人的には1000ページくらいで収まるような内容ではないと思う。十分に内容を理解するためにはより補足的な記述も必要なのかもしれない。また、西山事件は現在進行形であり、解決をみていないのだから、是非とも気力を振り絞って続編を執筆してほしいと思う。

評価を★×4としているのは、私の作品に対する理解不足によるところが大きいということを念のため申し添えておく。