読了日:2009/10/01
個人的評価:★★★★☆
書き下ろし 283ページ(東京創元社・2006/09/29)
<あらすじ> 人間は、死んだらどうなるの?―いなくなるのよ―いなくなって、どうなるの?―いなくなって、それだけなの―。その会話から三年後、鳳介の母はこの世を去った。父の洋一郎と二人だけの暮らしが始まって数日後、幼馴染みの亜紀の母親が自殺を遂げる。夫の職場である医科大学の研究棟の屋上から飛び降りたのだ。そして亜紀が交通事故に遭い、洋一郎までもが…。父とのささやかな幸せを願う小学五年生の少年が、苦悩の果てに辿り着いた驚愕の真実とは?話題作『向日葵の咲かない夏』の俊英が新たに放つ巧緻な傑作。 |
道尾秀介氏の作品は初見。「向日葵の咲かない夏」や「鬼の跫音」がベストセラーになっていて図書館ではすぐに借りられそうにないのでとりあえず予約だけしておき、過去の代表作を読んでみようと思い、図書館で借りてみた。8月に文庫化されたばかりで、最近また注目を浴びている作品。第7回本格ミステリー大賞小説部門受賞(2007年)、『このミステリーがすごい!2007年版』第3位、『2007本格ミステリー・ベスト10』第6位。 一体誰が犯人なのか最後の最後まで読者を迷わせ、いい意味で裏切り、楽しませてくれた。一つの場面を複数の登場人物からの視点で丁寧に描いており、登場人物それぞれの認識のズレによってストーリーの謎が形成されていて、それにすっかり騙されるのだ。誰が本当のことを言っているのか分からない、しかも主要な登場人物がすべからく精神に異常を来してしまっている。 出来の悪いミステリーだと、前半に放った伏線を完全に回収しきれないままストーリーを閉じてしまうものもあるが、本作品は、中盤までにちりばめられた伏線に後半できっちり意味を持たせているところも素晴らしい。若干飛ばし気味で読了したので、頭の中で整理できなかったが…。ミステリー作家という人種は、頭の中で展開をきれいにフロー化して、遡っていつでも中身を取り出せるようにできるのだろうか。感心するな、とてもじゃないが私にはできそうにない。 本作品では、真相を探っていくプロセスも面白いが、まだ素直な心を持っている年頃である小学校5年生の我茂鳳介がこれらの悲劇的な出来事の中で強く成長していくところも見どころだ。 |