読了日:2009/09/22・2009/09/25
個人的評価:★★★★☆
「文芸ポスト」連載 582ページ・572ページ(小学館・2006/09/20)
<あらすじ> 久藤美也は自分の容姿や頭脳が凡庸なことを嫌悪している。頭脳は明晰、経済的にも容姿にも恵まれている葛城拓馬だが、決して奢ることもなく常に冷静で淡々としている。神原尚彦は両親との縁が薄く、自分の境遇を不公平と感じている。<上巻>第一部ではこの3人の中学生が殺人者になるまでを、その内面を克明にたどりながら描く。その3人が同じ少年院に収容されて出会うのが第二部。過酷で陰湿な仕打ちで心が壊されていく中、3人の間には不思議な連帯感が生まれる。<下巻>第三部。少年院を退院した彼らはそれぞれ自分の生活を取り戻そうとするが、周囲の目は冷たく、徐々に行き場をなくしていく。そして、再び3人が出会う日がくる。少年犯罪を少年の視点から描いた、新機軸のクライムノベル。 |
5年にわたって雑誌に連載された1200ページ弱のかなりの長編だが、大きな場面転換があっても読者を飽きさせない力はすごい。非常に読みごたえのある作品だ。最近私が読んだ貫井氏の本は当たりが続いている。境遇も性格も全く異なる3人の14歳少年の犯罪をテーマに扱った作品で、逆送年齢が16歳から14歳に引き下げられる少年法改正以前の時代を舞台にしている。 この夏に小学館から文庫化される予定だったみたいだが急遽中止になり、来年前半に文春文庫から3分冊で発売されるようだ(貫井氏オフィシャルサイトより)。 上巻の第一部「胎動」では、3人の少年たちが殺人を犯すまでの彼らの心理が、第二部「接触」では、その後3人が出会った少年院での過酷な生活が、下巻の第三部「発動」では、社会に復帰したあとの3人と彼らを取り巻く人々の心理や言動が非常にリアルに描かれている。 若干不満だったのが、一貫して少年たちの論理で描写されている狂気に満ちた展開だったにもかかわらず、最後の最後になってありきたりな「こうあるべき」論になってしまったことだ。最後まで被害者の視点に立ったものは一切排除してほしかった。また、最近の小説の例に漏れず登場人物が多いのだが、何のために登場させたのかよく分からない人もいる(英里とか彩とか)。そのあたりのサイドストーリーが無駄に長くなったというところだろうか。 |