宮本輝「骸骨ビルの庭」(上)・(下)


読了日:2009/09/06・2009/09/08
個人的評価:★★☆☆☆
「群像」連載 (上)288ページ・(下)282ページ(講談社・2009/06/23)


<あらすじ>

住人たちを立ち退かせるため、八木沢省三郎は管理人として骸骨ビルに着任する。そこは、戦後、二人の青年が子供たちを育てた場所だった。食料にも事欠き、庭で野菜を作りながら、彼らは命を賭して子供たちと生きた。成人してもなおビルに住み続けるかつての子供たちと、老いた育ての親、それぞれの人生の軌跡と断ち切れぬ絆が八木沢の心を動かす。すべての日本人が忘れられない記憶。現代人が失った純粋な生き方が、今、鮮やかに甦る。

育ての親、阿部轍正は、子供たちの一人、桐田夏美への性的暴行の汚名を着たまま、苦悩のうちに死んだ。真相を求めて、八木沢は夏美の行方を追う。過去の謎が謎を呼び、秘密は深まる。一方、八木沢はビルにもう一度畑を甦らせようと一人耕し始める。そして、小さな命が蕾をつけるとき、骸骨ビルの本当の意味が明らかになる。自分は何のために、そして、誰のために、生きているのか?心の奥底から溢れ出す人間への讃歌。すべての生きとし生けるものへ贈る感動の長篇小説。



<たーやんの独断的評価>

宮本輝氏の最新刊。本屋で平積みになっていたので、図書館に予約してみた。

主人公である八木沢が、現在も骸骨ビルに住み続けているかつての子供達との会話を通して知った、戦後間もない時期から昭和30年代の様子を日記にしたためている。骸骨ビルの持ち主・阿部轍正、その友人・茂木泰造とともに住んでいた子供たちとの生活、育ての親としての子供たちへの愛情が描かれている。庭での野菜作りなどを通じて絆が深まっていき、子供達は生き抜いていくための術を学んでいく。

久々につまらない本に出会ってしまったようだ。登場人物が多い割に描き方が雑でなかなかキャラクターがスッと入ってこないし、ストーリーの展開も冗長で盛り上がりに欠けたまま終わってしまった。

南方の戦地から奇跡的に生還した阿部は空襲で家族を失ってしまい身寄りはない。残された財産である骸骨ビルを元手にして再起を図って生きていこうとするが、それが大したきっかけもなく(私にはそのように思えた)、子供たちを骸骨ビルで育てていくことこそがこの日本で生き続けていく自分の使命だと感じて、次々と子供たちを受け入れていく。戦後の混乱期とはいえ、混乱期だからこそ、子供を持ったこともない20代の男性2人が、運命的なものを感じたからと言って、迷い込んできた浮浪児を16人も育てようとするだろうか。そもそもこの設定自体に無理があるし、説得力に欠ける。あまりにも出来すぎた話だ。