荻原浩「明日の記憶」

読了日:2009/09/04
個人的評価:★★★★☆
「小説宝石」連載 327ページ(光文社・2004/10/25)


<あらすじ>

広告代理店営業部長の佐伯は、齢五十にして若年性アルツハイマーと診断された。仕事では重要な案件を抱え、一人娘は結婚を間近に控えていた。銀婚式をすませた妻との穏やかな思い出さえも、病は残酷に奪い去っていく。けれども彼を取り巻くいくつもの深い愛は、失われゆく記憶をはるか明日に甦らせるだろう。山本周五郎賞受賞の感動長編。



<たーやんの独断的評価>

2005年本屋大賞ノミネート作品(結果は2位で、この時の大賞が恩田陸「夜のピクニック」だ。この作品はあれに負けたのか??)。本作品は映画化されている。夫婦役は渡辺謙・樋口可南子。

不治の病・若年性アルツハイマーに侵された主人公、少しずつ病魔に侵されていくプロセスには戦慄が走る。ついには大切な人との思い出や顔すらも忘れてしまう、それを受け入れていかねばならない残酷な運命…、失われていない記憶を必死にメモに残してひたむきに頑張り続ける姿はあまりにも切ない。よくなることはないのだから…やりきれない。恥ずかしながら、この本を読むまで若年性アルツハイマーが死に至る病だとは知らなかった。人間は認知能力を奪われると生きようとすることをやめてしまうからだそうだ…。

物語に入り込み過ぎて、読了後、一瞬どこにいるのか分からなくなりそうだった。まるで自分が若年性アルツハイマーになってしまった悪夢を見ているかのようだった。自分の記憶装置は正しく作動しているのだろうか、とか、他人から見て、一見正常に見えるはずだが、本当はどうだろうか、と気になりだすと不安が拭いきれない…。だれの身に起きてもおかしくないことだけに…。とにかく精神的に消耗するストーリーだ。こういう本は久々かもしれない。

内容については触れないが、ラストシーンは絵にかいたように美しい。夕暮れにたたずむ二人。それがせめてもの救いだが、でも本当に大変なのはこの物語が終わってからなのだ…。現実はこんなにきれいなものではないということだろう。