百田尚樹「永遠の0」

読了日:2009/08/24
個人的評価:★★★☆☆
445ページ(太田出版・2006/08/28)


<あらすじ>

「生きて妻のもとへ帰る」
日本軍敗色濃厚ななか、生への執着を臆面もなく口にし、仲間から「卑怯者」とさげすまれたゼロ戦パイロットがいた…。人生の目標を失いかけていた青年・佐伯健太郎とフリーライターの姉・慶子は、太平洋戦争で戦死した祖父・宮部久蔵のことを調べ始める。祖父の話は特攻で死んだこと以外何も残されていなかった。元戦友たちの証言から浮かび上がってきた宮部久蔵の姿は健太郎たちの予想もしないものだった。凄腕を持ちながら、同時に異常なまでに死を恐れ、生に執着する戦闘機乗り――それが祖父だった。「生きて帰る」という妻との約束にこだわり続けた男は、なぜ特攻に志願したのか?健太郎と慶子はついに六十年の長きにわたって封印されていた驚愕の事実にたどりつく。はるかなる時を超えて結実した過酷にして清冽なる愛の物語!



<たーやんの独断的評価>

百田氏は関西系の長寿番組『探偵!ナイトスクープ』の放送作家。本作品はある零戦(正式名:三菱零式艦上戦闘機)の名パイロット・宮部久蔵の物語。語り手であるぼく・佐伯健太郎とその姉・慶子(宮部の孫)が祖父の戦友達の証言を聞きながら、祖父がどういう人物だったのかを少しずつ理解していく。9人の戦友の証言により次第に真相が明らかになっていく、そして”10人目”の証言で祖父の死の謎が明らかに…。祖父は卑怯者だったのか、それとも生への執着が人一倍強かったのか…。

証言を通して、零戦のパイロット達の誇り、特攻で散華していった若者達の生き様、若者たちの命を軽視した軍令部や軍の上官達の非道、生き抜くことの大切さ、国民を扇動したマスコミの無責任さなどが切々と描かれている。特攻の実態、太平洋戦争における海軍の実態についてあまり知らない人には、分かりやすく書かれているのでおススメだ。夏に一度は戦争について考えてみるのもよいのではないか。文庫本が出版されたばかりで飛ぶように売れている。

証言により描かれている内容は太平洋戦争を題材にしたドキュメンタリー番組や小説等の使い古しという感があるが、航空隊の最前線についてこれだけ緻密に描かれているものはなかなかないだろうし、個人的には零戦のことはあまり知らなかったので大変興味深かった(零戦の名パイロットの著書を参考にしているようだ)。

ただ、現代の若者が老人から戦争の証言を集めていき、その流れでストーリーが展開していくという構成はありきたりだし、フィクションは外枠だけで、祖父と戦友たちとの思い出話は大部分が他の著書などの引用であるという印象は否めない。逆に言えば、限りなく実話に近い話だけに鬼気迫るものがあるとみることもできる。この手の話をノンフィクションで読んだほうがよいかフィクションで読んだほうがよいかは好みが分かれるところだろう。

それにしても、姉の結婚にまつわる話はオリジナリティを出す以外に意味を見いだせない。全くもって不要な描写ではないか。このせいでストーリーが軽薄になっているような感じがする。