幼い命の死。報われぬ悲しみ。遺された家族は、ただ慟哭するしかないのか?良識派の主婦、怠慢な医師、深夜外来の常習者、無気力な公務員、尊大な定年退職者。複雑に絡み合うエゴイズムの果て、悲劇は起こった…。罪さえ問えぬ人災の連鎖を暴く、全く新しい社会派エンターテインメント。
読了日:2009/08/19
個人的評価:★★★★★
「週刊朝日」連載 516ページ(朝日新聞出版・2009/02/28)
<あらすじ> 幼い命の死。報われぬ悲しみ。遺された家族は、ただ慟哭するしかないのか?良識派の主婦、怠慢な医師、深夜外来の常習者、無気力な公務員、尊大な定年退職者。複雑に絡み合うエゴイズムの果て、悲劇は起こった…。罪さえ問えぬ人災の連鎖を暴く、全く新しい社会派エンターテインメント。
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貫井徳郎氏の最新刊。第141回直木賞(本年7月)ノミネート作品。残念ながら受賞に至らなかったが…。図書館で予約して3か月、ようやく手元に。それでもノミネートよりも先に予約をかけていたからまだ早い方だったのかもしれない。 罪のない2歳児が不運な事故により亡くなる。事件を暗示させるプロローグに次いで、各章は「−44」から始まり、負の数の章では事件に絡むこととなる人々の日常が描かれ、「0」で事故が発生、「37」までの正の数の章では事故に関するその人々の対応が描かれている。 登場人物がかなり多い(事故発生までに9つ?のストーリーが順番に出てくる)割に、登場人物の個性がよく書き分けられており、それぞれの話もよく整理されているので、混乱することなく読み進めていくことができる。バラバラの流れが事故で集約される。一見すると不運な天災のようにみえたこの事故の裏には、誰もがしてしまいそうな些細なモラル違反があり、それらが不幸にも相互に因果関係を結んでしまい、悲劇が起こった。これは”彼らの引き起こした人災”なのか。 被害者の父親が責任の所在を明らかにするために原因をたどっていく。それで彼らは自分のちょっとした後ろめたいモラル違反がもたらした結果の大きさを思い知らされる、しかも被害者の父親が一切の逃げ道を与えることなく自身の犯した罪の重さを思い知らせるわけだから、彼らの大半は一様に驚愕し、予見できるわけがない、言いがかりだと逆ギレし、責任転嫁する。一方、父親は自分のやっていることに空しさを感じ、精神的に疲弊していく。 身につまされるような話ばかりで胸に突き刺さってくる。聖人君主のような人でない限り、誰しも「これくらいのことなんてみんなやっているし、誰も見てなけりゃあいいか」という自分の都合のいいように解釈して、日常生活でモラル違反を犯してしまっているはずだ。 事故が発生するまでのくだりが割と長いが、読み終えてみると事故発生までの描写が後々生きてくるので無駄な描写はほとんどないと思われる。構成、展開、プロット、読者をひきつける力、いずれも◎。非常に良くできた娯楽小説だ。次の展開が気になって本の厚みをものともせず読み終えてしまう。当分文庫にはならないので、興味のある方は図書館で借りてみては如何か。 |