貫井徳郎「プリズム」

読了日:2009/08/11
個人的評価:★★★☆☆
「週刊小説」連載 265ページ(実業之日本社・1999/10/25)


<あらすじ>

小学校の女性教師が自宅で死体となって発見された。傍らには彼女の命を奪ったアンティーク時計が。事故の線も考えられたが、状況は殺人を物語っていた。ガラス切りを使って外された窓の鍵、睡眠薬が混入された箱詰めのチョコレート。彼女の同僚が容疑者として浮かび上がり、事件は容易に解決を迎えるかと思われたが…『慟哭』の作者が本格ミステリの極限に挑んだ衝撃の問題作。



<たーやんの独断的評価>

貫井氏の約10年前の作品。代表作のようなので図書館で借りてみた。本作品は、推理小説の古典的名作(エドガー・アラン・ポー「マリー・ロジェの謎」、アントニー・バークリー「毒入りチョコレート事件」)の手法を使って書かれたもの。私はこれらの作品は未読なので、完全なオリジナルだと思って読んでいた。

小学校の女性教師・山浦美津子が変死した。殺人・事故の両面が考えられるという状況。これについて、Scene-1「虚飾の仮面」では小学生・小宮山真司、Scene-2「仮面の裏側」では美津子の同僚・桜井、Scene-3「裏側の感情」では美津子の元交際相手・井筒、Scene-4「感情の虚飾」では美津子と不倫関係にあった小宮山茂樹からの視点で描かれる。

いつまでも結論に至らないことにもどかしさを感じる読者も多いだろうが、それが本作品の醍醐味であると言える。美津子を様々な角度から見て推理をするとこれだけのパターンがありうると…。つまり、その多面性こそ”プリズム”なのだ。

ただ…これはネタバレになってしまうが、4人の視点から導かれる推理はいずれも成り立つがいずれも今一つ説得力に欠けるし、それぞれの推理が互いに否定しあっているので、読了後も結局何で美津子が死んだのか分からずじまい。読後感はスッキリしないことこの上ない。何が真実なのかは読者に委ねて終わってしまっている。こんなのありかなあ。ずっとどんなどんでん返しがあるのか期待して読んできて損をしたような気分だ。最後の最後までは面白かったのに…。