高嶋哲夫「M8」

読了日:2009/08/08
個人的評価:★★★☆☆
書き下ろし 394ページ(集英社・2004/08/30)


<あらすじ>

28歳の若き研究者、瀬戸口の計算式は、マグニチュード8規模の直下型大地震が東京に迫っていることをしめしていた。十年前の神戸での震災、あのとき自分は何もできなかった。同じ過ちを繰り返したくはない。今、行動を起こさなければ…。東京に巨大地震が起こったら、高速道路は、地下鉄は、都心のビル街は、いったいどうなるのか。最新研究に基づいてシミュレーションした衝撃の作品。



<たーやんの独断的評価>

「M8」、「TSUNAMI」、「ジェミニの方舟」と続く”災害対策シリーズ”。高嶋氏の作品は初見。東京直下型大地震の予知、予兆、大地震発生についてリアルに描かれた作品だ。

私のような理科系音痴でも、難しい地球物理学の話を抜きにして、地震について多少なりともアカデミックな観点からみることができる。都市生活者にとっては、来るべき大地震に備えるためにも、読んでおくとよいかもしれない。私などは何も対策を講じていないので、ちょっと考えさせられるなあ。

シミュレーションにより地震の発生を予知してしまい、少しでも犠牲者を少なくするために、国民に公表すべしという考えは、シミュレーション否定論者からは単にパニックを引き起こすだけと一蹴されてしまい、瀬戸口や遠山元教授は”その日”が刻々と近づいてくるのを歯がゆい思いをしながら悪戦苦闘する。息もつかせぬ展開で興味深く読み進めることができる。

地震に関する記述については、その筋の専門家と言うこともあり、たくさんのブレインをかかえて執筆している小松左京氏にも劣らないだけのレベルだと思うが、登場人物の描写、人間模様、地震が起きてからの展開がありきたりでいささか退屈だったところが惜しまれる。後半については、坦々と救助活動の様子が描かれているだけで、ストーリーの柱がなくなってしまったような感じで、話のスケールの割に特段の感慨もなく読了。正直言って、終盤は読むのがしんどくなってしまった。

本作品の続編にあたる「TSUNAMI」も瀬戸口、松浦、亜紀子ら登場するようだ。事の成り行きで読むことになるだろうから、もう少し奥行きのある作品であることに期待したい。