恩田陸「訪問者」

読了日:2009/08/04
個人的評価:★★★☆☆
月刊「小説NON」連載 283ページ(祥伝社・2009/05/20)


<あらすじ>

山中にひっそりとたたずむ古い洋館―。三年前、近くの湖で不審死を遂げた実業家朝霞千沙子が建てたその館に、朝霞家の一族が集まっていた。千沙子に育てられた映画監督峠昌彦が急死したためであった。晩餐の席で昌彦の遺言が公開される。「父親が名乗り出たら、著作権継承者とする」孤児だったはずの昌彦の実父がこの中にいる?一同に疑惑が芽生える中、闇を切り裂く悲鳴が!冬雷の鳴る屋外で見知らぬ男の死体が発見される。数日前、館には「訪問者に気を付けろ」という不気味な警告文が届いていた…。果たして「訪問者」とは誰か?千沙子と昌彦の死の謎とは?そして、長く不安な一夜が始まるが、その時、来客を告げるベルが鳴った―。嵐に閉ざされた山荘を舞台に、至高のストーリー・テラーが贈る傑作ミステリー。



<たーやんの独断的評価>

恩田陸氏の最新刊。彼女の本格的ミステリーを読むのは初めて。個人的には彼女の作品はあまり読みやすくないという印象があるが、本作品では冒頭の雰囲気ですっかり惹きつけられてしまい、あっという間に読了。舞台は近くに湖がある人里離れた山荘、そして訪問者が増えるにつれて謎も増えていき、読者を再三にわたってあちこちに振り回すというありきたりのものではあるが、展開の速さ、山荘の関係者の心理的駆け引き、複雑に張り巡らされた伏線などが、結末への期待感を増幅し、読者を十分に楽しませてくれる。

終幕の「おおきなかぶ」ですべてが明らかになった瞬間、個人的には、期待が大きかった分、その反動で失望感も大きかった(ネタバレになるので内容には触れないが…)。自分自身の想定していた結末と全く異なっていたからかもしれないが…。今まで精巧に構築してきたストーリーをラスト50ページで台無しにしてしまったのではないか。これが恩田ワールドだと言われてしまえばその通りなのだが、読後感がすっきりしないことが私を彼女の作品から敬遠させている一因なのかもしれない。

また、ストーリー半ばを越えてから唐突に登場する青年・小野寺が関係者を前にして謎解きをするのは展開として不自然ではないか??まるですべてを見てきたかのような推理で、「何で急に現れた奴がそんな辻褄の合った精緻な推理を組み立てられるんだよっ」という違和感があった。やはり、昌彦の弁護士・井上が謎解きをしないとなあ…。

ちなみに、各章につけられた表題(「せいめいのれきし」、「ももいろのきりん」、「ちいさいおうち」、「かわいそうなぞう」、「ふるやのもり」、「おおきなかぶ」)は何だろうと思っていたが、名作絵本の題名に由来するもので、それぞれの内容がリンクしているようだ(私は絵本の内容を覚えていないのでよく分からないが…)。