山田悠介「その時までサヨナラ」

読了日:2009/07/29
個人的評価:★★★★☆
書き下ろし 316ページ(文芸社・2008/04/30)


<あらすじ>

森悟は大手出版社に勤める敏腕編集者。ところが、すべてを犠牲にして仕事に打ち込んできた結果、妻・亜紀と4歳になる息子・裕太とは決定的な溝ができてしまう。2ヶ月前、亜紀は裕太を連れて実家に帰り、離婚を待つばかりだった。
そこに舞い込んだ福島での列車事故の知らせ――。亜紀は亡くなり、裕太は奇跡的に無傷ではあったが、心に大きな傷を負ってしまう。悟は、自分にはまったくなつこうとせず、仕事をする上で邪魔としか思えない裕太を、義理の両親に引き取らせるつもりだった。
そんな時、亜紀の親友・宮前春子が自宅にやってくる。悟と裕太がしっかりと暮らしていけるように助けてほしいと、死の直前に偶然亜紀から頼まれていたため、その約束を果たしに来たのだという。
怒り、戸惑い、そして徐々に春子を受け入れていく悟。家事・育児などまったくできなかった男が、ゆっくりと成長していくのだが……。
列車事故の詳細が判明してゆくうちに、謎が謎を呼び、事態は思いがけない方向へ動き出す。悟は失いかけた”絆”を取り戻すことができるのか!?


<たーやんの独断的評価>

山田氏はRPGのようなワンパターンな小説しか書けないという先入観があったが、今回はずいぶんとテイストの違うストーリーだった。その点は高く評価したい。今回は「家族愛」がテーマ。

展開としては、ありがちで何となく結末も読めてしまうが、私が単純なのか、最後はしっかりと感動させてくれた。読者は、今まで家事、子育てに無関心だった主人公の父親が懸命に頑張っている姿に共感し、応援したくなるに違いない。また主人公の一人息子・裕太はゆーたんと同じ4歳。同じような年頃の子どもを持つ父親は、まだまだ母親に甘えたい歳なのに母親を失って健気に父親と暮らしていこうとする姿に我が子を重ね合わせて読むことだろう。心温まる話で、山田氏の作品では初めて読後感が清々しかった。しかも読みやすいのであっという間に読み終わるだろう。

ただ、やはり「家族愛」のテーマでは重松清氏が一日の長か…、中途半端な感はあるし、どこかで聞いたようなよくあるストーリーでもある。また、最後がファンタジー要素満点になってしまったのが何とも残念。ただ、小説家としての新たな分野への挑戦だったのだろうから、今度はもっと読者を感動させてくれるのではないかと期待している。こういう小説が書けるのであれば、今後も読んでみる価値はあるかもしれない。