伊坂幸太郎「終末のフール」

読了日:2009/07/17
個人的評価:★★★★☆
「小説すばる」連載 301ページ(集英社・2006/03/30)


<あらすじ>

8年後に小惑星が衝突し、地球は滅亡する。そう予告されてから5年が過ぎた頃。当初は絶望からパニックに陥った世界も、いまや平穏な小康状態にある。仙台北部の団地「ヒルズタウン」の住民たちも同様だった。彼らは余命3年という時間の中で人生を見つめ直す。家族の再生、新しい生命への希望、過去の恩讐。はたして終末を前にした人間にとっての幸福とは?今日を生きることの意味を知る物語。



<たーやんの独断的評価>


「終末のフール」、「太陽のシール」、「籠城のビール」、「冬眠のガール」、「鋼鉄のウール」、「天体のヨール」、「演劇のオール」、「深海のポール」の8篇からなる連作短編集。いずれも仙台にある「ヒルズタウン」の住民たちの出来事が綴られており、それぞれが互いに関連している。記憶力に自信のない方は前の話を忘れてしまうかもしれない(私は再三読み返すことになった…)ので、少なくとも2,3日以内に読み終えることをおススメする。時間が経ってしまうと読み返す箇所すら分からなくなるおそれがあるので…。登場人物の解説ページがついていればよいのだが…。読了後、ネットで調べてみたら、こんなサイトがあった。これを見ると住民たちの相関関係がよく分かるかもしれない。但し、ネタバレ防止のため、HPを閲覧するならば読了後の方がよいと思う。

http://www.shueisha.co.jp/hillstown/

3年後に小惑星が衝突して人類が滅亡するという突拍子もない設定の割にはなかなか楽しめる。人類滅亡を前にしたパニックストーリーなのかと思っていたら、パニックはとりあえず収まり、かりそめの平穏な日々に戻っているという設定で、「終末」という絶望感の中で坦々と過ごす、ごくごくありふれた日常が描かれているところがよい。8つの家族の人間模様が描かれており、1冊で8回楽しめる。特に登場する女性たちはみな魅力的だ。ネット上のレビューを見ると伊坂ファンは辛口評価のようであるが、個人的にはこういう作品の方がよいと思うけど…。