海堂尊「極北クレイマー」

読了日:2009/07/08
個人的評価:★★★☆☆
「週刊朝日」連載 436ページ(朝日新聞社出版・2009/04/30)


<あらすじ>

沈没する地方医療を救うのは誰か

赤字病院に左遷された外科医・今中の前に現れた謎の女医・姫宮の狙いは?
メディカル・エンターテインメントの新境地

財政破綻にあえぐ極北市。赤字5つ星の極北市民病院に、非常勤外科医の今中がやってきた。院長と事務長の対立、不衛生でカルテ管理もずさん、謎めいた医療事故、女性ジャーナリストの野心、病院閉鎖の危機…。はたして今中は桃色眼鏡の派遣女医・姫宮と手を組んで、医療崩壊の現場を再生できるのか。



<たーやんの独断的評価>


北海道の極北市にある市民病院に送り込まれた極北大学の若手医師が、地方医療の問題と産婦人科医療の課題にぶつかる内容。海堂作品をずっと読んできている方には、ここで取り上げられている帝王切開手術時の母子死亡の事案が過去の作品で何回か登場してきていることはご存知であろう(本作品と同様、「ジーン・ワルツ」や「イノセント・ゲリラの祝祭」でも、司法が医療を傘下に支配しようとする目論見に利用するためのスケープゴートとして取り上げられている。)。

本作品は「ジェネラル・ルージュの凱旋」の速水の続編なのかと思っていたら、彼は名前すら登場せずに、噂話で出てくる程度。海堂氏の作品は、他の作品との関連が重要である場合が多いが、本作品に限っては、単体で読んでも一向に差し支えないと思う。せいぜい、「ジーン・ワルツ」における清川准教授と、「ブラック・ペアン1988」の主人公・世良が不良債権病院立て直し請負人として唐突に終盤に登場するくらいで、白鳥室長と田口医師などは姫宮の会話の中に出てくる程度。

それにしても、姫宮が過去の作品のキャラとだいぶ違うような気がする。少なくとも、「螺鈿迷宮」での姫宮と比べると驚異的な記憶力を持つことは同じにしても、颯爽とした洗練された雰囲気になっているので違和感があるなあ。

この作品で、海堂氏が一番言いたいことは、おそらく清川准教授がテレビ番組で熱弁をふるったシーン(公権力の濫用からの医療の救出に関するコメント)だと思うが、様々な問題がとっちらかったまま、結論らしきもの特になく、「えっ、これが結末?」というドタバタ劇で終わってしまった。これは続編が出るのだろうか?続編はストーリー上、必要だと思うが、どうしても読んでみたいというほど食指が伸びない。シリーズものとしては中途半端な感は否めない。