浅田次郎「中原の虹(四)」

読了日:2009/07/04
個人的評価:★★★★☆
「小説現代」連載 363ページ(講談社・2007/11/08)


<あらすじ>

そして王者は、
長城を越える。

龍玉と天命を信じ、戦いに生きる。英雄たちの思いは、ただ一つ。
ついに歴史が動く。感動の最終章。浅田次郎の最高傑作、堂々完結!

答えろ。なぜ宦官になどなった」
「将軍はなにゆえ、馬賊などにおなりになられたのですか」
最後の宦官になった春児と、馬賊の雄・春雷。
極貧の中で生き別れた兄弟は、ついに再会を果たし、
祖国は梁文秀の帰国を待ち望む。

龍玉を握る張作霖。玉座を狙う袁世凱。
正義と良識を賭けて、いま、すべての者が約束の地に集う。



<たーやんの独断的評価>


近代国家へと歩みだす中国のロマンを壮大に書きあげた作品で、しかも馬賊の頭領である張作霖に焦点を当てていることなどがとても興味深くて、非常に期待していたのに、結果としては竜頭蛇尾だったなあというのが感想。変な例えだが、第四巻は吉川英治氏の「三国志」の最終巻を読んでいるかのように、ここまで物語を牽引してきた魅力ある登場人物たちの存在感が薄れてしまった、もしくは姿を消してしまっており、もはや長い後日談を聞かされているような感じであった。俗物の塊のような袁世凱は中華帝国の皇帝にまでのぼりつめるものの、国民からの総スカンを食らい、退位せざるを得ず失意のうちに憤死する。また、この国の夢を背負っていた宋教仁も上海で暗殺される。

本巻での見せ場は2つ。
1つは上海での宋教仁の演説、それにより、中国人民は「没法子(メイファーヅ=どうしようもない)」と言わなくなり、人民を立ち上がらせた大きなきっかけになる。彼が長生きしていれば中国の歴史は間違いなく変わっただろう。
もう一つは、李春雲と李春雷との再会、李春雷と梁文秀・琳々夫妻との再会だ。30年もの歳月が一気に駆け巡ったことであろうが、それぞれの立場はあまりにもかけ離れてしまい、兄弟らしい会話もほとんどなく、意外にもあっさりしたものだった。てっきり、この場面がクライマックスになるものだと思っていたが…。

でも、本作品はあくまでも馬賊の物語だから、浪花節調のクライマックスではダメなのだろう。長城の遥か彼方に臨める中原に虹がかかり、今や張作霖軍は長城を越えようとする、そこに270年前の満州族の功労者たち(順治帝、礼親王・代善)が長城を越えて行った描写が重なりあい、将来に希望を残すかのような美しい描写で結末を迎える。

朝日新聞のインタビューによると、浅田氏は本作品の続編の構想があるらしく、出版されるならばそんなに遠くない将来なのかもしれない。今度は誰を主人公にするのだろうか。