浅田次郎「中原の虹(二)」

読了日:2009/06/28
個人的評価:全巻読了後に評価
「小説現代」連載 371ページ(講談社・2006/11/01)


<あらすじ>

偉大なる母、西太后、死す。「この国は私が滅ぼす」。その悲壮な決意に、春児は、光緒帝は―。圧倒的感動で描かれる、ひとつの歴史の終焉。中国歴史巨編、佳境!

春児。春児。
私は死ぬけれど、どうかこの国の行末をおまえの目で見定めておくれ。そしていつか、あの世で教えてほしい。陛下、この国はとうとう誰のものにもなりませんでした、ってね」

民を愛し、たった一人で清朝を支えた太后の美しくも凄絶な最期。そして最後の皇帝が、玉座に登る――。



<たーやんの独断的評価>

第二巻に入って、先に「蒼穹の昴」を読んでおかないと本作品の良さが分からないという感を一層強くした。本巻では、春児の長兄の親友で元科挙の状元(科挙の首席合格者)だった梁文秀、春児の妹・琳々、春児の弟分である元光緒帝の宦官・蘭琴、西太后の唯一の孫・ミセス・チャンなどのその後の様子が描かれている。

「蒼穹の昴」と同様に、西太后の偉大さ、チャーミングな人柄が描かれている。西太后といえば、夫、息子を殺してまでも権力の座を手中にし、やりたい放題して清朝を滅亡させた亡国の鬼女として知られている。それは当時の諸外国メディアが西太后を悪者として報道し、その悪政によって清朝は滅亡すると印象付けたためだ。西太后はそれを逆に利用したのだ。徹底的に悪役を演じることにより、どこの洋人でもない中華の国にいる4億の民の誰かが新たな国を打ち立ててくれることを願って…。そのために、たった一人で半世紀もの間、いつ洋人に支配されることになってもおかしくなかった中華の国を守ってきたのだ。賢明なる光緒帝もその思いを理解しており、巻末では2人は手をたずさえているかのように相次いであの世へと旅立つ。

なお、西太后と光緒帝との電信の対話はひらがなで書かれており、また、日本陸軍将校の馬賊の記録は漢字片仮名交り文で書かれているなど、読みにくい箇所があるが、ストーリー上、大事なことが書かれている記述なので、読み飛ばさないことをおススメする。