重松清「希望ヶ丘の人びと」

読了日:2009/06/20
個人的評価:★★★★☆
「週刊ポスト」連載 510ページ(小学館・2009/01/20)


<あらすじ>

亡き妻のふるさとに住む父子を描く感動長編

亡き妻の「ふるさと」――そこには、彼女と仲の良かった友だちがいて、彼女のことを好きだった男がいて彼女が初めて恋をした人がいた…。70年代初めに開発されたニュータウンに引っ越してきた父と子の、かけがえのない日常を描く感動長編。
主人公の私〈田島〉は、この春から小学五年生になる亮太と中学三年生になる美嘉とともに「希望ヶ丘」にやってきた。ここは、2年前にガンで亡くなった妻・圭子の「ふるさと」であり、今度の引っ越しは、脱サラして進学塾の教室長への転職を決めた私自身の再出発でもあった…。いじめ、学級崩壊、モンスター・ペアレント、家族の死――あなたはいま、子どもたちにどんな「希望」を語れますか?



<たーやんの独断的評価>

2段組500ページ超の大作。長さの割にさらっと読める作品で、私は2日半で一気に読破。読後感も非常によく、面白かった。読み始めてすぐに読者は希望ヶ丘の住人になってしまう。読んでいて一緒に笑ったり、本気で腹を立てたりと、本作品の端役になったつもりになれる。重松氏の作品に共通して言えることだが、主人公を取り巻く登場人物のキャラがまたいい。エーちゃんは言うまでもなく、瑞雲先生、マリア、ショボくん、フーセン夫妻…。

希望ヶ丘に脱サラで引っ越してきた田島の目線で、家庭生活、学校生活、塾経営、習い事、亡き母の中学時代のこと等が描写されていく。希望ヶ丘という「閉鎖社会」の中での日常生活が描かれているためか、登場人物のほとんどがつながっている。この設定は、偶然が重なりすぎで無理があるような気がする。また、世の中に「エーちゃん」のような格好いい人はそうそういないだろうし、この結末のようにすべて丸くおさまるっていうのもそうそうないだろう。そのあたりが、リアリティに欠けるところだが、それでもありかなと思わせてしまうほど感動的なストーリーだ。今の私の心境というか願望としては、『「希望」は世界のどこかに転がっている』と思いたい。

我が家よりももう少し大きな子供がいる家のお父さんに是非とも読んでいただきたいと思う。いろいろと子供の教育について考えさせられると思う。

家族愛こそが重松氏のテーマであることは分かっているし、重松ファンもそれを期待しているのは分かるが、たまには違うテーマを扱った作品も読んでみたいと思うのは私だけだろうか。