桐野夏生「女神記」

読了日:2009/06/14
個人的評価:★★★★☆
書き下ろし251ページ(角川書店・2008/11/28)


<あらすじ>

遙か南、海蛇の島の大巫女の家系に、二人の姉妹が生まれた。姉・カミクゥは生まれながらに、大巫女を継ぐことが運命づけられていたが、妹・ナミマには、別の運命があった。ナミマが16歳になった年、祖母で大巫女のミクラが亡くなった。葬儀の祭祀はカミクゥが司ったが、その晩、ナミマに恐ろしい運命が告げられる。島を抜け出し、海上で出産をしたナミマは、16歳で死んだ。地底で目覚めたナミマの前に現れたのは、1日に千人の死者を選ぶ、黄泉の国の女神イザナミだった。イザナミは、夫イザナキによって、黄泉の国に閉じ込められ、死の支配者となっていたのだ。陰と陽、二つに引き裂かれた運命は、ふたたび巡り逢うのか!?強烈なキャラクターと豊かなストーリーテリング、人間と神の対立を交えて描く、愛と裏切りのスペクタクル!!



<たーやんの独断的評価>

桐野氏9年ぶりの書き下ろし。「新・世界の神話シリーズ」の中の一冊で、このプロジェクトは世界中の出版社が一体となり、各国を代表する作家たちが語り直した神話を同時刊行する、という遠大な計画なのだそうだ。日本からは桐野氏が参加して本作品ができたそうだ。

古事記のイザナミとイザナキの神話をもとにしたストーリー。古事記なんて、かつての日本史の勉強で、稗田阿礼が暗誦していた「帝紀」・「旧辞」を太安万侶が書き記し、編纂したものを天皇に献上したということを知っているのみで、内容についてはあまり知らない。それに、神話的要素が大半だからか全然関心がなかった。ということもあり、まとめて図書館から本が来てしまったとき、私にとっての優先順位が低かったため、一度読まずに返してしまった。再度予約してようやく手元に。

ところが…、こういう私のようにあまり関心のないような者でもすっかり魅了してしまうところはさすが桐野氏。第4章以外は、巫女ナミマの死者語りでストーリーが展開していく。いつものような桐野氏流のグロテスクな描写は少ないが、神話時代の日本列島であるヤマト、ヤマトの遥か南方海上にある多島海、ナミマが女神と出会う黄泉の国を舞台にして、激しい愛と憎しみが描かれている。魂同士の対話や神話時代の話でリアリティが全くないにもかかわらず、生き生きとした描写に一気に神話の世界へ誘われること請け合い。「陰と陽」、「生と死」、「昼と夜」、「明と暗」「男と女」、「天と地」など、一貫して対比がテーマとなっているので、それを念頭において読むとよいと思う。

これを読むときっと日本の神話についてもっと知りたくなり、古事記の注釈本を読んでみたくなると思う。私もヤマトタケルの話とか一部知っているが、イザナミとイザナキの国造りの神話についてはあまり知らないので、機会があったら見てみようと思う。正直言って、古事記の引用なのか、フィクションなのか分からない部分がたくさんあった…(+o+)。ちなみに★は4つにしてあるが、限りなく5つに近い4つだ。

(余談)
参考文献によると、海蛇の島というのは沖縄本島の東海上に浮かぶ「久高島」のことらしい。社会人1年目の時に出張行ったことがある。非常に小さい島だが、どの家も海蛇(イラブー)を飼っていたような気がする。