奥田英朗「最悪」

読了日:2009/06/05
個人的評価:★★★★☆
書き下ろし656ページ(講談社文庫)


<あらすじ>

不況にあえぐ鉄工所社長の川谷は、近隣との軋轢や、取引先の無理な頼みに頭を抱えていた。銀行員のみどりは、家庭の問題やセクハラに悩んでいた。和也は、トルエンを巡ってヤクザに弱みを握られた。無縁だった三人の人生が交差した時、運命は加速度をつけて転がり始める。比類なき犯罪小説、待望の文庫化!



<たーやんの独断的評価>

本作品は奥田氏の第2作。656Pの長編を2日半で読了。私自身に時間があるということもあるが、次々と起きる問題、速い展開にすっかり夢中になり、一気に読み終わらせてしまった。

最初の500ページは、孫下請の鉄工所経営者である川谷信次郎、都市銀行員の藤崎みどり、パチンコとケチなカツアゲで何とか生計を立てている野村和也の3人それぞれの目線で同時並行的に別々のストーリーが展開していくという構成になっており、通常であればなかなか本に集中できず読みづらいところだが、本作品は、それぞれの主人公のキャラクターや家庭環境、置かれている状況等が丁寧に描写されているため、ストーリーの世界にのめりこめる。次の展開が楽しみでなかなか読むのをやめられないほどだ。

そしてついに3人がある場所で出会うことに…。3人が出会うまでの間、特に、川谷と和也は当人自身も「自分ほどの不幸な者はいない」と思うように、次々と難題を抱えさせられて悪循環にはまっていっていたので、彼らがともに逃避行をした先にどれほど悲惨な結果が待ち受けているのかと思ったが、意外とありふれた結末で、もうひとひねり欲しかったところだ(ネタバレになるので具体的には書けないが…)。内容的には、表題のとおり主人公たちはリアルに「最悪」な状況に置かれており、心身とも疲弊し切っている状態にもかかわらず、どこかコミカルなところがあるため、読者を心底暗くさせるようなことはないと思う。