帚木蓬生「閉鎖病棟」

読了日:2009/05/19
個人的評価:★★★☆☆
361ページ(新潮文庫)


<あらすじ>

とある精神科病棟。重い過去を引きずり、家族や世間から疎まれ遠ざけられながらも、明るく生きようとする患者たち。その日常を破ったのは、ある殺人事件だった…。彼を犯行へと駆り立てたものは何か?その理由を知る者たちは―。現役精神科医の作者が、病院の内部を患者の視点から描く。淡々としつつ優しさに溢れる語り口、感涙を誘う結末が絶賛を浴びた。山本周五郎賞受賞作。



<たーやんの独断的評価>

精神病棟の患者の目線で書かれた異色作。患者達の日常を綴りながら、彼らの感じていること、考えていることが描写されている(若干、冗長なきらいはあるが…)。閉ざされた世界を紹介してくれるという意味で現役精神科医ならではの作品だと言える。帚木氏の作品を読むのは2作目だが、あまり取り上げられない題材がテーマになっており、読者はその重いテーマに考えさせられる。ちなみにプロローグ的な話が冒頭に3つあった後に始まる病棟でのシーンでは一気にかなりの登場人物が出てくるので読み飛ばさないことをおススメする。

精神病患者に対しては身内すらも偏見があり、それゆえに彼らは普通の生活を送ることができず、「閉鎖病棟」で何十年と過ごすことを余儀なくされる。心の病だけにどこからが病気でどこからが健常なのかというのは誰にも分からないところだ。「とてもこだわりがあること」は一歩間違えると「病気」だと言われてしまうのがいい例だ。私は毎朝分刻みで同じことをしないと気が済まない性質なのだが、これも「一種の病気」だと言われればそうなのかもしれない。

本作の評価は分かれるところかもしれないが、結末の裁判のシーンは感動ものである。チュウさんの心の叫びは胸に訴えかけてくること間違いなし。