東野圭吾「聖女の救済」

読了日:2009/04/29
個人的評価:★★★★☆
オール讀物連載378ページ(文藝春秋)


<あらすじ>

ガリレオが迎えた新たなる敵……それは女

おそらく君たちは負ける。僕も勝てない。これは完全犯罪だ。

男が自宅で毒殺されたとき、離婚を切り出されていたその妻には鉄壁のアリバイがあった。草薙刑事は美貌の妻に魅かれ、毒物混入方法は不明のまま。湯川が推理した真相は―――虚数解。

理論的には考えられても、現実的にはありえない。





<たーやんの独断的評価>

ガリレオシリーズの「ガリレオの苦悩」と同時に出された最新作。今回のガリレオの敵は「女」、犯人は最初からわかっているが、犯人のアリバイとトリックが本作品の醍醐味。ガリレオこと湯川が登場するのは100ページあまり読み進んでから。被害者が東京で死亡した時に北海道にいて「女」には完璧なアリバイがあり、被害者は毒物により死亡していることが分かっているが、毒物混入方法が分からないなど、警視庁の刑事達には手に負えず、ようやく真打登場というところだ。

それにしても、この被害者、世の中の女性すべてを敵に回すような女性観を持っている。だから殺したくなるのだろうが、そのやり方が凄まじい。通常では考えられないような発想だ。それが「虚数解」たる所以だ。本作品の表題にある「救済」という意味はトリックが解けた時に初めて分かる。ラスト5ページにたった1回だけ使われるワード!

相変わらず、文章がとても読みやすく、また、今回は最後の最後までトリックが分からなかったので、全編を通して楽しみながら読むことができた。が…、今回はトリックの解明が無駄に引き延ばされた感がある割に、意外と大したトリックではなかったこと、あと東野氏特有の最後のどんでん返しもなく、すんなり終わってしまったところに若干物足りなさを感じる。また、ストーリーに味付けをする上で必要なのかもしれないが、草薙刑事が「女」に仄かな恋心を抱くところは唐突であり、今までのキャラからしても違和感がある。ガリレオシリーズの長編としては「容疑者Xの献身」の方がはるかに格上だ。