重松清「とんび」

読了日:2009/04/14
個人的評価:★★★★☆
東京新聞等連載382ページ(角川書店)


<あらすじ>

つらいときは、
  ここに帰ってくればいい。

昭和37年、ヤスさん28歳の秋、長男アキラが生まれた。
愛妻・美佐子さんと、我が子の成長を見守る日々は、
幼い頃に親と離別したヤスさんにとって、
ようやく手に入れた「家族」のぬくもりだった。
しかし、その幸福は、突然の悲劇によって打ち砕かれてしまう―。

我が子の幸せだけを願いながら悪戦苦闘する父親の、
喜びと哀しみを丹念に描き上げた、重松清渾身の長編小説。




<たーやんの独断的評価>

今回も家族愛がテーマ。少年のような心を持ったまま大人になったヤスさんと美佐子さんとの間にアキラが生まれる。ところがアキラが4歳の時に突然の暗転…アキラに降りかかってきた危機を美佐子さんが命を投げ出して身代わりになる。
妻に先立たれた夫、母が自分をかばって先立たれてしまった息子、その後、転落の人生を歩んでも不思議ではないけれど、彼らの周りには実に愛が溢れていた。
豪快で意地っ張りで不器用だけど、照れ屋で情に篤く涙もろい愛すべきキャラのヤスさんは周囲の人々(またこの人たちがいい味を出している)にも助けられながら、男手ひとつで一心に我が子を慈しんで育て、アキラは思慮深い優しい気持ちを持つ子に成長していく。
アキラは成長するにつれて次第に親離れをしようとするが、ヤスさんは子離れができず、将来の進路を決める時、東京へ巣立つ日、就職先を決めた時、婚約者を連れてきた時、どの時も不器用さが前面に出てしまい、素直になれないヤスさんを、たえ子さんや照雲さん等周囲の人がフォローしたり、時には迫真の演技でヤスさんに決断をさせたりと人間味あふれる物語だ。
本作品における一番の山場は、ヤスさんが上京したついでにアキラの勤める会社を訪問して上司の計らいでアキラが入社試験の時に書いた作文「父の嘘」を読ませてもらった時…父は子供には母の死の真相を伝えていなかったが、子は真実を知っていた…。ここはありきたりだが最大のウルウルポイントだろう。

まだ私にとっては我が子が巣立つのはだいぶ先の話ということもあり、まだまだヤスさんの目線よりもアキラの目線の方が近しいので共感しにくい部分もあるが、いつかはこんな複雑な心境になるのだろうか。

いつもながら重松氏の書く心温まる物語に読後感は極めて爽やか。ただ、登場人物がいい人ばかりで少しくらい悪い人がいてもよさそうなのに…、このあたりがリアリティに欠けるところだ。

重松氏の少し違うカラーの作品も読んでみたいものだが、既に『季節風・冬』が手元に来てしまっているので、次も同じようなジャンルになるな。