海堂尊「イノセント・ゲリラの祝祭」
イノセント・ゲリラの祝祭

読了日:2009/02/06
個人的評価:★★★★★
書き下ろし373ページ(宝島社)

テキスト ボックス: 〜オビの解説より〜
東城大学医学部付属病院不定愁訴外来の責任者で、万年講師の田口公平は、いつものように高階病院長からの呼び出しを受けていた。高階病院長の“ささやかな”お願いは、厚生労働省主催の会議出席。依頼主は、厚生労働省役人にてロジカル・モンスター、白鳥圭輔。名指しで指名を受けた田口は嫌々ながら、東京に上京することを了承した。行き先は白鳥の本丸・医療事故調査委員会。さまざまな思惑が飛び交う会議に出席した田口は、グズグズの医療行政の現実を知ることに・・・・・・。





















<Review>

バチスタシリーズの第4弾。個人的にはかなり面白く読めた。まず、本作品はミステリ
ーではなく、医療問題評論を小説化したものと理解して読まれることをおススメする。メ
インの舞台は病院ではなく、厚労省の会議室、主人公はおなじみの田口・白鳥コン
ビ、準主人公は『ひかりの剣』のチョイ役で出てきた田口の大学の後輩・彦根。

今までの作品でも海堂氏は日本の医療のあり方に鋭くメスを入れてきたが、今回は、
彦根の検討会での発言を通して、問題の本丸とも言うべき医療行政、司法へ徹底的
に挑戦していくこれまでの集大成とも言える作品である。それだけに、過去の作品をで
きるだけ読んでから本作品を読まれることをおススメする。特に『チーム・バチスタの栄
光』はその中で取り上げられた医療事故・その遺族が本作品の中に再三出てくるので
必読。可能であれば、『ジーン・ワルツ』や『螺鈿迷宮』も読了済の方がよりストーリー
が見えてくると思われる。

医学の世界では一兵卒に過ぎない彦根が完璧なロジックで優秀な官僚、一流の法学
者を論破するところは実に小気味よく、妙に共感もできるが、読了後、冷静になって考
えてみると特に官僚の描写はいくらなんでもデフォルメし過ぎだろうとは思う。さすがに
そこまで役人は腐っていないだろう。海堂氏は厚労省の懇談会に委員かオブザーバ
ーで出席しているのだろうか。ちょっとした描写などは実にリアリティがあって興味深
い。

望むべくは、もう少し白鳥の出番がほしかったところだ。あの型破りの官僚に周囲にい
る「普通の」官僚たちが振り回される姿は抱腹絶倒モノだ。