雫井脩介「犯罪小説家」
犯罪小説家

読了日:2009/01/21
個人的評価:★★★★☆
書き下ろし372ページ(双葉社)

テキスト ボックス: 〜オビの解説より〜
新進作家、待居涼司の出世作『凍て鶴』に映画化の話が持ち上がった。監督に抜擢された人気脚本家の小野川充は『凍て鶴』に並々ならぬ興味を示し、この作品のヒロインには、かつての伝説的な自殺系サイト〔落花の会〕を運営していた木ノ瀬蓮美の影響が見られると、奇抜な持論を展開する。待居の戸惑いをよそに、さらに彼は、そのサイトに残された謎の解明が映画化のために必要だと言い、待居を自分のペースに引き込もうとしていく。そんな小野川に、待居は不気味さを感じ始め――。

全篇に充ちた不穏な空気。
好奇心と恐怖が交錯する傑作心理サスペンス!
























<Review>

久々に雫井氏の本格的なミステリーを読んだ。同氏の『犯人に告ぐ』は世の中の評価はとても高いようだが、私にはこの作品あたりからつまらなくなってきたように感じる。『クローズド・ノート』などは途中で読むのをやめようかと思ったくらい。しかし、本作品は久々のヒット!前半は、待居、小野川、今泉の三者からの目線で描かれていくのが煩わしく感じるものの(一体主人公は誰?と思うかもしれない)、目線が変わるゆえに登場人物をいろいろな角度から照らして描いている点は興味深い。それがまた読者にそれぞれの相関関係を複雑に感じさせ、犯人が誰か確信を持たせないカラクリになっている。自殺系サイト関係の話が出てくるあたりから、本気モードのスイッチが「カチッ」と入ったのを感じ、そこからは一気に畳みかけるようにストーリーが展開されていく。待居と小野川との会話はかみ合わないまま、ついに真実の核心に迫る…。二人の狂気に満ちた対決シーンは見所の一つ。物書きは異常な経験をしていないと人々の心を打つようなモノを書くことができないのではないかと思わせてしまう、本作品にはそれだけの説得力があった…。