大神

 随分間が開いてしまいました。プレイしたゲームをレビューしようと思ってもクリアするまで時間がとれず、クリアしてないゲームを批判するのって頭悪そうで文章を書くに至れなかったのですが、友人に『クリアできないぐらいダメだった旨を書けば良いんじゃね?』とアドバイスをいただいたので重い筆を取ることにしました。

 今回紹介するのは2006年4月にカプコン・クローバースタジオより発売された『大神』です。ジャンルは『ネイチャーアドベンチャー』、筆によって描かれたキャラクターが水墨画のような世界を縦横無尽に駆け回るゲームです。

 そのゲーム性は爽快の一言。主人公であるアマテラスは狼であり大神で、走り抜ければ足跡には花が咲き、二段ジャンプすれば木の葉が舞い散り、筆で描くようにコマンドを入力する『筆しらべ』によって風が吹く・水を操る・ツタに捕まって移動するなど自然の力を借りた大胆なアクションができ、『マリオ64』以来久々にただキャラが駆け回ってるだけで楽しいゲームです。

 ゲームの目的は封印されていた邪悪の根源『ヤマタノオロチ』が復活したことで真っ黒に染められてしまった世界を、アマテラスが筆の力『神降ろし』によって自然を取り戻すというもの。特に『大神降ろし』のシーンは黒一色の荒廃した大地が逆に自然で染め返され、花は咲き小川は流れ、鳥や小動物がいる日本の原風景に帰るところをスピード感溢れる演出と壮大なBGMによって豪快に描かれ、思わず涙腺が緩むほどの迫力とカタルシスがあります。

 今作の大きな特徴として、雑魚敵戦で経験値を得られません。代わりに人助けをする、木々に花を咲かせる、小動物に餌を与えるなどをすることでアマテラスへの信仰心が上がり、経験値に代替するポイントがたまっていくシステムになっています。勇者が雑魚を虐殺してレベルアップ!というよく考えたらちょっとオカシイ普通のRPGと比べ、雑魚狩りなしで強化することができる今作は主人公が神様であることが強調されるかと思います。

 また、黒い世界では進入するだけでダメージを食らうゾーンがあり(背景も『死』『呪』といった漢字の羅列になる)移動に制限があるが、大神降ろしによって行動できる範囲も広がります。よって

・黒一色の世界
・暗いBGM
・雑魚敵頻出
・行動制限
・弱い主人公
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ボス戦を経て大神降ろし
(美麗ムービー)

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・色彩豊かな大自然
・勇ましいBGM
・雑魚敵減少
・制限の解除
・主人公の強化
・新しい筆技の習得


次の舞台へ
(黒い世界)

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 というモデルが作れます。ボスを倒すことで視覚・聴覚・ゲーム面全てに対して明確な変化があるためゲームを進めることへの強力なカタルシスとインセンティブができます。さすが20年来アクションゲームを作っているカプコン、手馴れてます(何

 キャラクターは筆で描いたようなCGに統一されています。クローバースタジオといえば代表作は『ビューティフル・ジョー』。色彩感覚とセンスが飛びぬけています。キャラクターの台詞回しにも外来語は使われず(ウシワカは例外w)、BGMも和風のもので、更にキャラクターは筆書き。半ばパロディの域まで徹底して『日本』であることにこだわっていて、日本の民話をベースにしたストーリーとも合致し全てが相乗効果を生み出しています。

 独特のゲームシステム、美しいムービー、爽快な動作性、個性的なグラフィック、完成度の高いBGM、馴染みあるストーリー、完成されたプロセス。ケチのつけようがねぇ。実際に『大神』は平成18年度文化庁メディア芸術祭・エンターテインメント部門大賞、日本ゲーム大賞2007・年間作品部門優秀賞、IGN Game of the Year2006大賞を受賞するなど、高評価を受けています。

 そんな面白いゲームなのですが、私はどうしても最後までプレイできませんでした。いや、最後までプレイするモチベーションを維持することが出来ませんでした。面白いけど!確かに面白いんだけど!

…カンタンすぎるんだ大神…。

 謎解きは、それ自体が非常に簡単である上に過剰に配置されたヒントがいちいち赤字で表示されるため「わかったから!わかってるから!」という気分になってしまいます。

 戦闘においても、主人公の攻撃モーション中にボタンを連打することでダメージが増やせるのですが増えすぎで、武器を少し強化するだけで一撃で雑魚が倒せるようになってしまいます。また、今作では『神格』というシステムがあります。早い話が1回分ダメージを無効にしてくれるバリアで神格のレベルによって3回分まで防いでくれます。神格はダメージを受けると減り、敵を殴っていると上がっていきます。相手の攻撃パターンも単調で回避が簡単な上に無制限なバリアがあるため主人公のライフが尽きることはまずありません。連打しているだけで敵はすぐ死ぬ・飛んでくるのは避けやすい攻撃・当たっても神格のおかげで無効・神格は連打で回復。ハイパーオリンピックか。ゲーム開始早々雑魚戦は作業と化します

 『強化なし+筆技なし』でやっても楽勝であろうバランスである上に、昨今のゲームには基本装備となった難易度設定がありません。そのくせちいさなメダル的なコレクションアイテムは2周目に引き継ぐ=周回プレイを想定しているのはちょっと理解不能…。

 更にシナリオ序盤に当面の敵であるヤマタノオロチを倒してしまいますがゲームは終わりません。旅の目的は『世界に緑を取り戻すこと』『ヤマタノオロチを倒すこと』なのですが、前者(神降ろし)は舞台ごとの1ステップにすぎず、話の転がし方は『ヤマタノオロチに迫ること』に終始していたため目的不在のまま世界を放浪することになります。そのまま各地で神降ろしを転々と続けることになります。

 名作『ドラゴンクエスト』シリーズを例に挙げます。

 1の目的は『竜王を倒すこと』、竜王を倒してストーリーは完結します。3は『バラモスを倒すこと』ですが中盤でバラモスを倒してすぐにバラモスの親分であるゾーマが現れ、『ゾーマを倒すこと』にスイッチします。

 ストーリーに対する評価の芳しくない6の当初の目的は『ムドーを倒すこと』ですが、こちらも割りと序盤でムドーを倒してしまいます。ですが代替案はなく、あてもなく世界を放浪してたらラスボス出てきたらから殺しちゃったwという展開になります。7の場合はもっと顕著で最初から『色んな世界を旅すること』が目的で、良く言えばオムニバス形式、悪く言えばストーリーに1本の芯がないまま進行し、魔王が降臨したっぽいから殺しておきますねwという話です。

 大神は後者に相当します。ヤマタノオロチ撃退以降は各地で困っている人を助けて神降ろしして〜を延々繰り返すだけです。戦闘はボタン連打、シナリオは場当たり的、しかも謎解きは簡単。神降ろしを中心にしたカタルシスに訴えるやり方がいかに優れていようと、同じことを何度も何度も繰り返すだけではモチベーションを保つことは難しいです…。

 よって私は面白いのに続ける気が起きないという極めて珍しい状況になることとなりました。ゲームが難しすぎて投げたことは何度かありますが簡単すぎて投げたのは後にも先にも『大神』だけでしょう。

 『DQ6』では狭間の世界以降、『7』はディスク2以降ストーリーが急転直下するのできっと『大神』も終盤は一気に引き込まれるシナリオが展開されるのでしょうが、PS2に触れる時間を取り辛い今はその気は起きません。作品自体は本当に面白いので、時間が出来たらいつか続きをプレイしたいと思います。思うだけの可能性は濃厚です(ぉ


 追記:先日、ニコニコ動画上で大神のラストバトル動画を見ました。マジ神。もう、曲聞くだけで条件反射で涙が出る程度。おかげでタツノコVSカプコンがプレイできる気がしません

 大雑把に説明すると、ラスボスに奇襲されてアマテラスは力を失ってしまうのですが、絵を描かない仲間の絵師イッスンがアマテラスの絵で伝導し、アマテラスへの信仰心によって復活、スーパーモードになってラストバトル!!という見よ!涙腺はあぁかく燃えているぅぅぅぅ!!(CV:関智一)な展開です。信仰心については上述した通り。システムの上でだけでなく、ストーリーの上でも神であることを強調する徹底ぶり。この妥協のなさが大神の面白さの秘訣なんですね。

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